今日は月に一度の露西亜寿司のサービスデーだ。あたしは毎月この日は無条件で臨也さんと池袋にお出掛けできるので、本人には内緒だが密かな楽しみとしている。と言っても、大抵は夜に食べに行くのが主なので、あまり寄り道ができないのが唯一の不満だ。それでも、臨也さんと堂々と手を繋いでデートができるなら問題ない。今日も今日とて静雄さ…訂正、平和島さんに見つからないように露西亜寿司までの道程を歩む。

今日は臨也さんの仕事が溜まっているということでお持ち帰りすることにした。いつもならカウンターでたわいもない話をしながら食べるので少し残念である。でもやっぱり我儘を言うわけにもいかないので、寂しさを紛らわせた笑顔を浮かべ、幟を潜って店を出た。しかし、いつも思うのだがあの店内の内装はどうにかならないものかと思う。噂には聞いていたが、実際に初めてお店を訪れたときは瞠目せずにはいられなかった。

それからなぜか少し寄り道をして行こうという話になり、南池袋周辺を散歩することになった。それだったら寄り道せず店で寿司を食べれば良かったのではないかと疑問に思ったが、気分が変わったそうだ。全く、臨也さんの気紛れには未だによく分からないものがある。まあ、あたしとしては家に帰ればあまり構ってもらえないので万々歳だが。そんなことを思いながら臨也さんの片手には二人分の寿司が提げられ、もう片方はあたしと手を繋いでいる。この、何気ない幸せが堪らない。あたしは緩みそうになる頬を必死に我慢して足を進めていたのだが、ラーメン屋の前を通り過ぎたところで、なぜかゴミ袋の上で寝ている若者を見つけた。大きな鼾をかきながら大の字に寝転がる20代前半の青年。臨也さんはいつものことだと言わんばかりに通り過ぎ、あたしもそれに続いて足を進めようとしたのだが、けたたましく鳴り響いた機械音に耳を奪われた。何事かと思いその発信源に視線を向けると、例の気持ち良さそうに寝ている青年のパーカーのポケットから覗く携帯の着信だった。興味本意で近付いてみると、なぜかディスプレイに門田と表示されている。それに気付いたあたしは知り合いの門田さんを思い出し、無言で指を指して臨也さんに教えれば徐に携帯を取り上げ通話に出た。

「寿司ラブ。俺は大トロが好き」

どんなもしもしだと思ったが、敢えて突っ込まないことにする。それから臨也さんが門田さんであろう電話の向こうの人をドタチンと呼び、なにか話している間あたしは未だ覚めることのない青年に近付いてみた。すると変な匂いがしたので、よくよく嗅いでみたら薬品系の香りが鼻腔を擽る。なにか危ない感じがしたので、それを伝えようと臨也さんに近付こうとしたら目の前を何かが勢いよく通り過ぎた。何事かと思いそれに目を見やれば、公園にある象の形をした滑り台だった。急いで飛んできた方向を見ると、闇の中でも目立つ金髪とバーテン服を着た平和島さんがいるではないか。

「臨也ぁ!池袋に来るんじゃねぇっ!!」

臨也さんも平和島さんの存在に気付いたようで門田さんと二言三言、言葉を交わしたあと急いで通話を切り、青年の方に携帯を投げ返した。そのままあたしの腕を掴んで走り出す。

「い、臨也さん!?」
「早く!逃げるよ」
「ぇ、えぇっ」

そう言われてもあたしが大の大人の、しかも男性の足の速さについていける訳もなく、足を縺れそうになりながら必死に筋肉を動かして平和島さんから逃げるのだった。





漸く平和島さんを撒けたところで、近くにあった公園へと身を隠すことにした。あたしの体力はもうへとへとで、足を震わせながらなんとか座れそうな所に腰を下ろす。臨也さんもそれに倣ってあたしの隣に腰を下ろした。

「なんであたしまで逃げなきゃいけなかったんですか…」
「仕方ないだろ?あのままじゃ○○も俺の道連れになりそうだったんだからさ」
「あたしはそこまで平和島さんと仲悪くないもん…」

理不尽過ぎる不満を溢し、下から臨也さんを睨み付けた。体力はどちらかと言えばある方だが、それでもやっぱり成人済男性には劣る。…もっと道場の稽古頑張ろう。しかし平和島さんから逃れるために長い間走り続けたため、疲れてもう動きたくない。今すぐ寿司を食べたい気分だ。いや、その前になにか喉を潤すものが飲みたい。

一度下を俯いた顔を上げ、なにか飲み物でも買ってこようか聞こうと臨也さんに視線を戻せば、先程まで人を小馬鹿にしたような笑みを浮かべていた表情が、なぜか急に不機嫌そうにあたしを見つめている。

「ふぅん…いつの間にそんなにシズちゃんと仲良くなったんだ?」
「…あっ」
「あの時、腕を掴まずに○○を置いてきた方が良かったのかな?」
「え…と、そういう意味で言ったんじゃ…」

ああああぁぁ、あたしの馬鹿!失言した!この前平和島さんとの件で散々懲らしめられたばっかじゃん!馬鹿!あたしの馬鹿!!

あわわと慌てるあたしを一瞥し、視線を逆方向に向ける臨也さん。どう弁解したものかと頭を悩ませる。そりゃあ確かに平和島さんとは仲良くさせてもらってるし、臨也さんよりは対人関係は上手くいってる方だとは思うけど…ああぁでもこの前の事もあるし、どう機嫌を損ねないようにするべきか…。

散々悩んで出した結論は、在り来たりでどうしようもないものだったが黙ってるよりはマシだと思い、臨也さんのコートの裾を少しだけ引っ張る。ゆっくりとこちらに視線を戻した臨也さんに、必死に恥ずかしさを押し殺して告げた。あぁ、もう。この前とシチュエーションが違いすぎて顔が赤くなってないか不安である。

「キレた平和島さんをなんとかする自信はあるけど、臨也さん以外の人を好きになる自信はないから…」
「…」
「だ、だから、その、臨也さん以上に仲が良くなる人なんていないから…」
「…だから?」
「心配、しないでください」

恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい!!なんっだこの甘い空気は!あたしのキャラじゃない!なんであたしこんな雰囲気作っちゃってんの!?

こんなシチュエーションで素直に話す自分に寒気がしながら臨也さんと視線を合わせれば、これでもかと言うほど意地の悪い笑顔を浮かべていた。うん、騙された。またあたし騙されちゃったよ畜生、今日は厄日だ。思わずそのまま臨也さんのことを睥睨したが、上目遣いとなってしまったのできっと効果はないだろう。寧ろ心の中で喜ばれたに違いない。

今度はあたしが視線を大きく外したが、臨也さんはそんなあたしを小さく笑い、急に立ち上がった。あたしの膝の上に寿司を置き、頭をくしゃっと撫でられる。そのまま足を歩きだし、自販機へと向かっていく。両手に缶コーヒーと緑茶を手に戻ってきた臨也さんが、あたしに緑茶を差し出した。遠慮なくそれを頂戴し、一気に半分近くまで飲み干す。よっぽど疲れてたんだなあと、自分自身しみじみと感じた。臨也さんはそんなあたしにまたクスクス笑いながら寿司に手を伸ばす。正直なんで笑われたのか分からないまま、お互いに寿司の包みを開け広げ、大トロに手を付けた。もう家に帰ってから食べる気は臨也さんも失せたのだろう、美味しそうに次々ネタを頬張っている。缶コーヒーに寿司はどうなのかと思いながら、あたしも食を進めることにしたのだった。





束の間の休息
(やっぱり寿司は大トロだなぁ)
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100221
遂にシリーズ化。drrr!!熱、いや臨也熱ハンパねえぇ。そして然り気に寿司が好きな臨也に萌え。アニメ万々歳ありがとう。

それにしても、なぜか話が甘くなって吐き気が…←
狂った臨也が書きたい。

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