「イチゴがいっぱいのったショートケーキが食いたい」



部屋を甘ったるい匂いが充満する。綺麗に焼きあがったスポンジケーキを冷ましてる間に、まだ液状の生クリームを泡立てた。飾り用とスポンジの間に挟む用にと、この時期なかなか手に入らないイチゴを切り分かる。彼の場合イチゴだけじゃ足りないだろうから、他にもピーチやバナナ、キウイ、リンゴ、パイナップル、ミカンなどなど。たくさんのいろんな種類のフルーツを切って、ハケで砂糖水をスポンジに染み込ませこちらも半分に切った。

そろそろ仕上げに取り掛かろうと生クリームを丁寧に周りに塗っていき、均一にムラなくのばす。ゆっくりゆっくり慎重に手掛け、下の段は終了。大量のフルーツをその上にちらつかせ、瑞々しい果汁がキラキラ光っているように見えた。残りのスポンジもズレなくのせ、上も生クリームを塗ってゆく。ようやく全部塗り終わったところで、最終段階に突入だ。今度は綺麗に1つ1つフルーツを並べていき、隙間なく詰めていく。そうして端を固め、真ん中にスペースを空けたところでメッセージプレートの登場だ。ベタにおめでとうとデコペンでブレないようそっと書き、それをスポンジの真ん中にのせる。

ようやく一息ついたところで、すっとそのスポンジから離れ距離を取って眺めた。自分で作ったにしては割とうまくいったほうで、フルーツが横からはみ出るくらいたくさん入ったケーキの出来上がりだ。


先日、一人暮らしのシンプルなアパートに住む彼の元へと遊びに行った。そこで、なにかを悟られないようそれとなくな彼になにが欲しいのかと尋ねる。もちろん急にそんなことを聞いたため少し訝しがられたが、そこは強引に押し切ってなんとか聞き出した。

てっきり、なにか実用品とか生活用品などをいわれるかと思いきや、意外や意外。甘い甘いお菓子を強請られたのだから驚いた。なんでも、テレビで見たケーキがおいしそうに見えたらしく、急に食べたくなったそうだ。しかし更に話を聞いてみると、そのテレビで放送されたケーキ屋はとても有名な洋菓子店で、1・2時間は軽く並ぶところだった。しかも年末年始はどこの飲食店もほとんど休み。チェーン店でもなければ営業しないだろう、特にその洋菓子店は自営業なのだから尚更だ。


「ショートケーキが食いたい」

しかし好きな人の願いならば、なんとしても叶えたいと思うのが当然なわけで。まあそんな流れがあり、あたしはこんな大晦日にケーキ作りをすることにしたのである。





「お邪魔しまーす」
「おう、まああがれよ」

ケーキを持って、彼の家へと向かった大晦日の夜。初詣は三箇日に行くということになり、年越しはエースの家で過ごすことになった。ケーキを気づかれないように冷蔵庫に画し、途中のスーパーでそばを買ってきたので、二人でテレビを見ながら料理をする。特にこれといったことはせずに、ブラウン管から流れる音を聞きながら食事をした。お風呂に入ったり、談笑したりと適度に過ごしながら刻一刻と元日が目前にと迫っている。カウントダウンのテレビにチャンネルを切り替え、二人寄り添った。

「もうすぐだね」
「ああ」

チラッと時計に目を向け、あと30秒ほどで24時を回るのが分かった。テレビでは人々が口に出して数字を数えており、0といった瞬間に花火があがって次々にお祝いの言葉を口にする。あたしたちもお互いに向き合う形に座り合った。

「明けましておめでとうございます」
「おう、おめでとう」
「今年もよろしくね」
「もちろん」

エースの明るい太陽に幸せを噛みしめながら、すっと立ち上がり部屋の奥へと向かう。冷蔵庫に入れていた箱を持ってきて、彼のテーブルの目の前に置いた。なぜかエースは目を真ん丸くしてパチパチと瞬きをしていて、器用だなぁとか思ったりする。

「なんだよこれ」
「プレゼント!」
「はぁ?」
「ジャーン」

口で効果音を表し、我ながらバカだと思いながら蓋を開けた。持ってくるときに中でずれて少し形が崩れているのは仕方ないが、原型はちゃんと保っている、主にイチゴがたくさんのったショートケーキ。彼はそれを見てすぐに感嘆の声をあげた。

「すっげ…どうしたんだよ」
「作ったんだよ」
「お前が?」
「だってエース食べたかったんでしょ?」

にっこり微笑み、箱からケーキを出して、用意した蝋燭を20本分を刺す。順番に火をつけていきながら、定番の歌を歌った。若干恥ずかしそうにしながらそっぽを向く彼に気をよくしたあたしは、ついでに部屋の明かりも消してみる。

「ハッピ バースデイ トューユー。ほら、火消しなよ」
「いや、この年になってこれは結構ハズイ…」
「まだ20歳でしょ?誕生日はいくつになっても祝うもんなんだから、ほら早く」

急かす形となってしまったが、火を消して改めておめでとうと伝える。暗闇だったのでよく確認できなかったが、エースは照れくさそうに頭の後ろに手を回してありがとなと言ってくれた。部屋の明かりを消そうと立ち上がろうとしたが、その前に手首を引かれバランスを崩して転んでしまう。しかし、そのあたしの手を引いた犯人がふわっと受け止めてくれて、太陽のような匂いが鼻腔を刺激した。自分の顔を、そこにエースの顔があるであろう方向に目を向ける。

「ケーキ、本当にありがとな。すっげー嬉しい」

今度は間近で見たので、エースが太陽みたいな笑顔を浮かべるのが分かった。心がほっかりと温まり、とても幸せな気持ちが身体全体に行き渡る。その笑顔を見れただけで、あたしは充分に嬉しかった。

誰にも邪魔されない二人だけの空間。暗闇の中、暫く見つめ合う。そして、どちらからともなく顔を近づけた。甘い甘い、ケーキにも負けないぐらいの砂糖菓子。来年も、こうして一緒に過ごせればいいと切に願う。




砂糖菓子の箱庭
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20110101
誕生日プレゼントにはケーキをあげたい!!な黒田です。

企画「臆病なくまに花の冠を」さま提出
この度は素敵な企画に参加させていただき、ありがとうございました。
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