「織姫と彦星は今頃、一年振りに会ってるんだろうな」


今日は七夕。
兵助と八左ヱ門は長屋の屋根の上で星空を見上げていた。
夜も遅く、鍛練をする生徒もいないのか
まるで二人しか存在していないように思えてくる。
そんな中、八左ヱ門が静寂を破った。



「もし俺達を二人に例えたらさ、俺が彦星で、兵助が織姫だな」

「…ぷっ、あはは」
「なっ、どうして笑うんだよ!」
「だって、八が牛飼いって似合いすぎて……あははは」
「別にいいだろ!それに兵助の織姫の方が似合うって」
「いや、それ全然うれしくないから」
「いーや、絶対似合う!」
「だからそれ誉め言葉じゃないんだって」


そんなやり取りをひとしきり交わして、
また黙って空を眺める。
最愛の人と一年ぶりに会うというのは、どんな気持ちなのだろう?今は毎日のように八と会えるけど、卒業したら?一年に一度どころか、一生会うことも無いかもしれない。
空の向こうにいるのであろう、織姫と彦星に思いを馳せる。



「でもさ仮にそうだったとして、そしたら俺は八と一年に一度しか会えないんだよな」

もしもの話を口に出した。
決してこんな気持ちを悟られないように
何もない風を装って。


「大丈夫だって!」

返ってきたのは、いつもの安心する八そのものだった。


「俺は一度飼った生物は最後まで責任を持って面倒を見る男だからな!」
「…?」
「兵助との事だってずっと、いつまでも一緒にいるさ」


顔が赤くなるのが自分でも分かった。
織姫と彦星の話をしてたのに、
この先の、俺達の将来の話に変わってるよ八─。
今が夜でよかった。
こんな顔見られたら、恥ずかしくてどうにかなりそうだ。



「兵助はどうなんだ?」
「どうって……」
「隣にいるのが俺でいいのか?」

そんなの、いいに決まってる。

「…うん」

うれしくて、恥ずかしくて
一言可愛いげの無い返事しか返せなかったけど。


「じゃあ、決まりな!」


ああ、やっぱり。
この笑顔が一年に一度しか見られないなんて
今の俺には耐えられそうにない。



──一年365日
毎日側にいられること
あま気付かないけれど、
それはとても幸せなこと



***

七夕小説第2段笹豆腐でした。


2011/7/7




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