「きり丸、笹を切ってきたから短冊を書こう」 「ああ、今日は七夕っすか!じゃあ俺の願い事はー『銭が貯まりますように』と、『アルバイトの依頼がもっときますように』と──…」 「こらっ!短冊は一人一枚が基本だぞ」 「えぇー、先生と二人しかいないんだから、いっぱい書いてもいいじゃないっすかあ。先生のケチー」 「全くお前は…。ほら、七夕飾り作るぞ」
相変わらずきり丸には銭の事しか頭に無いのか…。 それから二人で黙々と飾りを作っていたが、ふときり丸が顔を上げた。
「ねぇ土井先生。七夕の説話って、織姫と彦星が夫婦生活にかまけて仕事しなくなったから天帝に離れさせられたって話でしたよね?」 「そんなあけすけな…。確かにそういう話ではあるけどな」 「じゃあ俺達に例えたら、俺が彦星で先生が織姫ですね」 「私が織姫か?」
少し想像してみたが、似合わないにも程がある。きり丸の方がよっぽど──って思った事は黙っておこう。
「俺には牛飼いの方が性に合ってますから。それに先生も内職得意じゃないすか」 「きり丸に散々やらされたからな…。でも仕事ばかりな私達なら、働かないなんて事無いんじゃないのか?」 「…でも俺、最近バイトの量かなり減ったっすよ。主に土井先生のせいで」
ああ…、やけに神妙な顔をしてると思ったらそういうことか。天の邪鬼な所も変わらないなぁ。
「もし引き離されたとして、きり丸は七夕の日には来てくれるんだろう?」 「そりゃそうですよ」 「それで十分だよ」
笑って頭を撫でてやる。
「だってアルバイト一番のきり丸がなあ…、仕事を休んで私に会いに来てくれるんだぞ?それだけで私はうれしいんだよ」 「〜っ、揚げ足取らないでください!もうこの話はいいですから、さっさと笹飾っちゃいましょう!」
そう言うときり丸は笹を担いで行ってしまった。
家の壁に立て掛けられた笹を見上げた。結局たくさん提げられた短冊が風に吹かれて揺れている。 その中でも一際高い所にある一枚に目を通す。
『──土井先生とずっと一緒にいられますように』
天に願わなくても、 きり丸がそれを望んでくれるなら 私はずっと一緒にいるさ。 一年に一回なんて言わずにな。
***
七夕の土井きり雰囲気小説でした。 話にはあまり関係ないですが、個人的にはきり丸六年生ぐらいのイメージ。
2011/7/7
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