モブリットを尊敬
「大丈夫かい、シィナちゃん?」
「す、すみません…モブリットさん…」
「謝らなくていいよ。急にあんなの見せられたら誰でも気分くらい悪くなるさ」
軽く喉元に手を当てて、力なくモブリットさんは笑った。
今日は訓練はお休みで、代わりに前回の壁外調査で生け捕りにしてきた二体の巨人(ハンジさん曰くチカチローニとアルベルトという名前らしい)の実験見学をさせられている。
ハンジさんに何度も巨人についての話は聞かされていたけれど、やっぱり本物のそれを目の前にすると怖くて足が震えた。
いくら厳重に捕えられているとは言っても、すぐそこにいるのは巨人。
しかもハンジさんは自分から巨人たちの目の前に行って、挙句喰われかけていた。
寸でのところで飛びのいたハンジさんは嬉しそうな顔で興奮気味に叫んでいたけど、それを見せられるこっちは堪ったものじゃない。
私の隣にいたモブリットさんなんかは、無茶をしまくるハンジさんを落ち着かせようと朝から夕方まで叫びに叫び、ついに声がしわがれてしまっていた。
ちなみに今日一番多く聞いたモブリットさんの言葉は「分隊長、生き急ぎすぎです!!」だ。
「…モブリットさんってすごいですよね」
「ん?」
「あのハンジさんとずっと一緒にいるんですもん」
「ああ。まぁ…あの人が上司だからね」
ソファに横になって見上げるモブリットさんは苦笑した。その顔に疲労の色が見える。
表情から日々の苦労が垣間見えて、私は妙な親近感を覚えた。
「シィナちゃんだって、いつも分隊長の巨人談義に付き合わされてるじゃないか」
お互い様だよ、と言ったモブリットさん。
どうやら親近感を覚えたのは私ひとりじゃなかったみたい。
「そのせいでリヴァイさんには『奇行種』って呼ばれちゃいました…」
「そ、それは…ご愁傷さま、だね」
何とも言えない気持ちで呟いた独り言にも律儀に返事をくれるモブリットさんは真面目な人なんだろう。
この人がいるから、ハンジさんの暴走はあの程度で済んでいるのかもしれない。
私はモブリットさんを改めて尊敬した。