ハンジと訓練

今日の担当教官はハンジさんだった。
ハンジさんとの訓練はその性格をよく表していて、とてもマイペースだ。単調な訓練が長時間続くとすぐ休憩したがるし、そうかと思えば訓練中でもすぐに巨人の話をし始めるし、不定期だけどたまにものすごく長い時間、私を放置することだってある。


「よしシィナ、休憩にしよう!」

「ま、またですか?さっきも休憩入れたじゃないですか!」

「そうだっけ?まあ細かいことはいいからさ!」


姿勢制御の訓練に入ってから、たぶんまだ10分も経っていなんじゃないかと思う。流石に早すぎだ。けれど担当教官にそう言われ地面に降ろされてしまうと、私はどうすることもできない。


「いやあごめんねぇ!もし巨人の生け捕りに成功したら、どんな実験をしようか考えていたらいてもたってもいられなくってさぁ!」

「…まさか、それを私に聞かせるための休憩ですか?」

「そうだよ!だってシィナ、いつも面白い意見出してくれるから」


こんな時、普段の自分を恨みたくなる。
私はただ思い付きで話しているんだけど、その考えがことごとくハンジさんの琴線に触れてしまうらしく、いつの間にかハンジさんからいろんな話を聞かされては意見を求められるようになってしまっていた。

周りからはハンジさんの巨人談義の犠牲者として憐れまれるか、ハンジさんと同類かと引かれるか、大抵どちらかだ。最近は割と後者の方が多い。

困った話だと思うけど、ハンジさんの話に付き合える時点で私も『奇行種』らしい。リヴァイさんから実に不名誉なあだ名を頂いたのはつい先日のことだ。


「でね、その実験のことなんだけど…」

「おい、何してやがる」


絶対零度の声の主は今思い出していた人本人で、私とハンジさんが同時に身を竦ませてしまう相手でもあった。
隣にいたハンジさんがいつの間にか地面に挨拶している。眼鏡が割れてないか心配だ。


「今は何する時間だ?」

「い、いやだなぁリヴァイ!少し休憩してただけじゃないか」

「ほう。俺が見ていた限りでは少し前にも一度休憩をとっていたように見えたが」

「え、リヴァイずっと見…ったい!痛いっ!」


顔をあげたハンジさんを、容赦なく蹴り飛ばすリヴァイさんの目が怖い。さらにその目が私に向けられるともっと怖い。
ハンジさんに巨人の話をさせるのも怖いけれど、リヴァイさんが不機嫌な時はその比じゃないほど怖い。

でも本当に、いつから見ていたのだろう。聞くなんて絶対無理だけど。


「いいか奇行種ども。俺たちがやってんのは遊びじゃねぇ、訓練だ」


相当苛ついたのか、私とハンジさんに正座をさせたリヴァイさんのお説教が始まる。
これを聞くのも何度目になるか分からない。
私は強制的に休憩させられただけなので納得はいかないけど、それを主張したところでじゃあ話を聞くなと言われ、それができたら苦労しないと項垂れることしか私にはできないので全く意味がなかった。


リヴァイさんの私に対する『奇行種』認識はしばらく変わらなさそうだ。



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