ナナバの気遣い
「やぁシィナ。お疲れ様」
「ナナバさん!」
走り込みを終えた後、日陰になっている木の根元に座り込んでいるとそんな言葉とともにナナバさんが現れた。
慌てて立ち上がってお疲れ様ですと頭を下げると、くすくす笑って「そんなのいいのに」と呟く。
「まあ座ろう。…ここは涼しくていいね」
「さっきまで走ってたので、暑くって…」
「うん、見てたよ。毎日頑張っているみたいだね」
微笑んで、ナナバさんは私をみる。そうして軽く頭をなでてくれた。
「この後は休憩?」
「あ、えっと…」
言葉を濁しながら目を逸らすと、ナナバさんが首を傾げる。
ついさっき、今日の訓練に付き合ってくれているリヴァイさん(いわゆる今日の担当教官)から言い渡されただけの距離を走り終えたところだけど、残念ながらまだ休むわけにはいかなかった。
リヴァイさんとの訓練は時間を区切って行われる。次は姿勢制御の訓練の予定で、開始時間までもう幾ばくも無い。
だけど、実は走り終わったあとで体はへろへろに疲れ切ってしまっていて、このまま姿勢制御をしたところでリヴァイさんの機嫌が急降下することは火を見るよりも明らか。
あの人は訓練中、一切妥協は許さない。
「…シィナ。悪いんだけど、ちょっと資料室に行って私の手伝いをしてくれない?」
「え?でも、もうすぐリヴァイさんが…」
「どうしても今日中に終わらせたい仕事があるんだけど、ちょっと必要な資料が見つからなくてね。私より君の方が資料室は詳しいと思うから」
担当教官には私から話しておくから頼むよ、とウィンクしてナナバさんが笑う。ポケットから取り出した小さな紙にはいくつかの資料の名前が書かれていた。
確かに私は、いろんな人に頼まれてよく資料室に行く。
大体の資料の場所なら把握しているし、効率としてはいいのかもしれないけれど。
訓練中にいいのかな?
そう思ってナナバさんを見上げるも、お願いと微笑まれるだけだ。
「…分かりました、行ってきます」
「ありがとう、助かるよ。私はここで待っているから」
私は立ち上がってナナバさんから紙を受け取り、資料室に向かう。
私に頼むくらいなんだから、きっと急ぎのものに違いない。
早く取りに行かなくちゃ。
そう思うけど走れるほどの体力もないのでなるべく速足で歩く私の背後。
「…あの子は頑張りすぎる。少しくらい休憩時間をあげてもかまいませんよね、担当教官?」
「…好きにしろ」
そこにいる人数が増えていることを、私は知らない。