リヴァイと掃除

リヴァイさんは潔癖症らしい。

装備や服が汚れると必ず真っ白のハンカチを取り出して、光に反射して輝くまでに磨く。
拭うのではない、磨くのだ。表現はこれで間違っていない。

訓練の後にそんなリヴァイさんの時間を邪魔すると剣呑な目つきに殺されそうになる。
あの視線は最早殺人兵器だ。

それほどまでに、彼の潔癖は凄まじい。こと掃除に関しては、リヴァイさんに口出しできる人なんてこの調査兵団中を探してもいないと思う。
自身の部屋は毎朝埃ひとつまで完璧に駆逐しているらしいと風の噂で耳にした。


そんな人物がいま、私の部屋を訪れている。
目の前で腕を組み、仁王立ちしている。

私は背に嫌な汗が伝うのを感じていた。

事の起こりは私が体調を崩して寝込んでいた一週間まで遡る。当たり前だけど、当時はあまりの体調の悪さに甘んじて部屋の掃除などほとんどしていなかった。

その時、キアナの手紙を届けに来たリヴァイさんは部屋の埃っぽさに顔を顰めたという。

たった数日使われないだけでも椅子やテーブルにはうっすらと埃が積もるもの。
食事の置き場だったテーブルの方はそうでもなかったけれど、椅子の方には手は付けられていない。そんな椅子にますます不機嫌になりながら、リヴァイさんは手紙を渡して早々に私の部屋を出たのだ。

あの時部屋に入ってこなかったのも、そういった状況を想定したためらしい。
気を遣ってくれたのだと思っていたのはとんだ勘違いだったというわけだ。

それでも、分かっていながら我慢して私の部屋に来てくれた。リヴァイさんは目つきが怖いし口も悪いけど、いい人なのだと思う。


「あ、あの…どうですか?」


けれど我慢ならなくなったリヴァイさんは、私が回復してまともに動けるようになったころ、満を持して部屋にやってきた。
ちょうど掃除をしようかと思い立っていたところに現れた掃除婦のような装いのリヴァイさんに、私の思考が停止したのは言うまでもない。


そんなリヴァイさんに小言を言われながら、何とか部屋の掃除を終わらせた今。残るは当人からの『合格』の声のみである。


「…及第点といったところだな」


その言葉に思わず拳を握って喜んだのも無理はないと思う。
掃除を始めて既に1時間が経過していて、間もなく夕食の時刻だ。


「なかなかいい手際だ」

「ありがとうございます。キアナも結構綺麗好きだったので、掃除は割と得意なんです」


短時間で効率よく、汚れはきっちり落とす。

キアナの口癖だった。

一緒に暮らし始めて半年もすると、彼女の病気の具合も悪くなってなかなか一緒に掃除をすることもできなくなったため、余計にそれが身に染みついたのかもしれない。

どちらかといえば、掃除の合間合間で入れられたリヴァイさんの小言の方がよほど堪えた。
少しくらいなら、と手を抜こうものならすぐに見抜きそのまま説教を始めるのだ。リヴァイさんには誤魔化しなんて通用しないと痛感した瞬間だった。

お蔭で部屋は初めて来た日よりももっと綺麗に磨かれ、光が差したなら輝いたのではないかと密かに思っている。


「…そういえば、リヴァイさん。初めてこの部屋に入った時埃なんてなかったように思うんですけど、誰かこの部屋を掃除していたんですか?」


少なくとも1年以上は主のいなかったこの部屋が、突然あてがわれたその日に掃除もせずに居られるほど綺麗だったことに今更ながら違和感を覚える。それをリヴァイさんに問えば、彼はああ、と軽く頷いた。


「俺がしていた」

「え、リ、リヴァイさんが!?何でですか!?」

「汚い部屋を放っておくわけにはいかねぇからな」


舌打ちしてさらりと言ってのけたが、この言い方からすると、毎朝掃除しているのは自分の部屋だけではなさそうだ。


「…リヴァイさんって、もしかして毎朝いろんなところ掃除してるんですか?」

「あ?それがなんだ」


やっぱり、と心の中で息をついて、私は勢いよく頭を下げた。


「私にもお手伝いさせてください!足手まといにはなりません!」


実際及第点はもらっているのだ。戦力として頼りないかもしれないけれど、足手まといにはならないと思う。
失礼な態度をとってしまったことに対する引け目もあって、リヴァイさんの役に立ちたいという思いはいつも持っていたから、これは願ってもないチャンスだった。


「だ、だめですか…?」


しばらく沈黙が流れたので不安になって、ちらりと顔をあげる。
相変わらずの無表情がそこにあった。


「…確かに手際はいいが、まだまだ細かいところまで目が行き届いていない。掃除の手伝いがしたいなら、まずは自分の部屋を掃除して俺に『合格』と言わせてみろ」

「は、はいっ!」


それは『合格』を貰ったなら、手伝ってもいいということ?
さっさと部屋を出ていくリヴァイさんを見送りながら、申し出を一刀両断されなかったことに嬉しくなった。

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