アルミンは苦労人
午前の訓練が終わって、私は一人で食堂に向かっていた。
今日はアニもミーナも食事当番で一足先に行ってしまっているからだ。
「シィナー!」
呼ばれて振り返ると、そこに居るのはエレンだった。割と日常的になってきたこの展開に、私は内心またかと頭垂れる。
「なあ、また話聞かせてくれよ!」
「…えーっとね、エレン。期待してくれてるところ申し訳ないんだけど、私だってネタの宝庫じゃないんだよ?」
もう何度目かも覚えていないやり取りだ。いい加減話せることももう尽きてしまっている。
それでも話を聞きたいというくらい、エレンは調査兵団に憧れているのだ。
「…エレン!」
「もう、またシィナに話聞きに来てたの?」
こちらもいつも通り、遅れてやってきたのはミカサとアルミンだ。
アルミンは呆れたって顔してるのに、エレンは一向に気にした様子はない。流石鈍感。
「ホントになんでもいいんだって!」
「シィナ、お願い」
「ミ、ミカサまで…」
本当に何も話せることがないんだって。私は苦笑を顔に張り付ける。
「エレンもミカサもいい加減にしなよ。シィナだって困ってるだろ」
アルミンが二人を宥めようとする。いつも大変だなぁって思うけど、正直アルミンがいてくれないと困るのは私も同じだ。
二人にもう一度ごめんねと謝って、今日のところは勘弁してもらう。
「えっと、それより次の座学、試験あるけど…勉強しなくて大丈夫?」
午後一番の座学の話をすれば、まずミカサが小さく頷く。
うん、ミカサはどんな試験だって成績いいもんね。
「大丈夫だよ」
エレンがそう言って、アルミンが苦笑した。あれ、珍しく自信ありげ。
「アルミンに教えてもらったからな!」
自信ありげな理由はそれか!確かにそれなら自信持てそうだけど。
「お!いたいた!アルミン!!」
「コニー?どうかしたの?」
アルミンを探し回っていたのか、息を切らしてコニーが駆けてくる。
そうして顔を上げたコニーは、ものすごく必死な顔をしていた。
「頼む!次の座学の試験範囲教えてくれ!」
「え、ええ?!今から!?」
「い、一応勉強はしようと思ったんだぜ?けど、いつの間にか寝ちまってて…。なあ、頼むよアルミン!」
「わ、分かったよ…」
「助かる!今回の点数悪かったら、夕食抜きで補習だって言われちまってよ…」
どうやら教官に脅されているらしい。
コニーはいつも点数がよろしくないから、仕方ない。
だけどそれを聞いて顔を顰めたのはエレンだ。
多少不安は残っているらしく、早く昼食を食べて確認しようという話で落ちついたようだ。
コニーとエレンに引きずられるような格好で先に行ってしまったアルミンを見送って、ミカサと顔を見合わせる。
「…アルミンって、大変だね」
ミカサが困ったように頷いた。