調査兵団と酒B
昨日、ミケさんやリヴァイさん、ハンジさんに勧められるままお酒を飲んで、そのあとの記憶がない。
いつの間にか私はキアナの部屋に戻ってきていて、きちんと布団をかぶって寝ていた。
頭は痛くなかったけど少し気分が悪い。
とりあえずは朝ご飯。
今日も今日とて訓練が入っているから、朝の一食は絶対に欠かせない。
身支度を整えて廊下に出ると、朝食の時間には間に合ったらしい。朝日の差し込む廊下を行き来する人がたくさんいた。
「おはようございます」
「あ、シィナちゃん。おはよう。昨日は良かったね」
「え?」
何のことかと聞く前にその人は行ってしまった。
多分、昨日の送別会のことだろう。あたりを付けて再び食堂に向かう。
「ああ、シィナちゃん!昨日は良かったねぇ!」
「あ、はい!」
「おはようシィナちゃん。本当に良かったな」
「は、はい…?」
会う人ごとに「良かったね」と言われて、違和感から首を傾げる。送別会のことを言っているにしても、皆同じことを言うなんて何か変だ。
昨日、何かあったっけ?
首を傾げながら食堂に入ると、いつも通り混み合ったその中にリヴァイさんの姿を見つける。
「リヴァイさん、おはようございます」
「…ああ」
近くに座ってもいいか尋ねると頷いてくれたので、お言葉に甘えて向かいに座る。
しばらく黙々とご飯を食べていたけど、今朝の不思議な出来事を思い出したから、ちょうどいいかとリヴァイさんに聞いてみた。
「あの、リヴァイさん。今朝、会う人みんなに『昨日は良かったね』って言われるんですけど…」
「…」
言った瞬間、リヴァイさんの動きがピタリと止まった。驚いて私まで固まってしまう。
もしかしてこれは、聞いてはいけない何かだったのかもしれない。
そんな不安に駆られていたら、リヴァイさんが顔をあげた。
「…おいガキ」
「は、はい!」
「酒は飲んでも、呑まれるなよ」
それだけ言って、リヴァイさんは席を立つ。
呆然とする私を置いて、あっという間に食堂を出て行ってしまった。
「…酒は飲んでも呑まれるな」
昨日、何かやってしまったのだろうか。記憶がないのは飲みすぎて酔っぱらってしまったかららしい。
それがどうして『昨日は良かったね』につながるのか分からなくて首を傾げながらも、私はその言葉をしっかり胸に仕舞い込んだ。