ミカサと東洋人
「あなたは、東洋人?」
ミーナ、アニ、大変です。私の目の前に超絶美少女がいます。
私は今ここにいない親友二人に、心の中で助けを求めた。その超絶美少女・ミカサは、私の前で仁王立ちしている。
身長差があるから見下ろされている私は、まさに蛇に睨まれた蛙状態。
「え、えっと、多分…」
「多分?」
「私、記憶喪失だから、よくわからないの」
「…そう」
ごめんなさい、と眉を下げるミカサ。
気後れするほど綺麗な容姿と優秀な成績に定評のある彼女と二人きりというこの状況。
どうしてこうなった。
「ミカサは東洋人、なんだよね?」
「そう。私のお母さんが最後の生き残りだったと聞いてる」
過去形で紡がれたその言葉。
それ以上は踏み込めなくて、そうなんだ。と無難に相槌を返す。
「シィナの家族は、その、」
「ううん、東洋人じゃなかった」
彷徨っていた私を拾ってくれたキアナ。病に侵されながら、私にたくさんのことを教え、笑顔を向けてくれた人。
「調査兵団の兵士だったんだって。でも病気になって、戦線を離脱したの。シガンシナ区に住んでて、イェーガー先生の往診を受けてたんだ」
「…大切な人、だった?」
「うん、もちろん。私を助けてくれた人だもん。ミカサにとってのエレンみたいな存在だよ、今でもね」
エレンの名前を出した瞬間に、ミカサの表情が柔らかいものになる。
まるで大切な宝物を眺める様な顔で、彼女は頷いた。
「ミカサのお母さんは、どんな人だったの?」
「私のお母さんは…」
遠いどこかを思い出すように、ミカサの瞳が虚空を映す。
「…綺麗な、人だった。優しくて、温かい…」
「そっか…うん、ミカサのお母さんだもんね」
なんとなく分かるよ、と言ったら、ミカサは一拍置いて綺麗に微笑んだ。
「おーい、ミカサー?…お、いたいた!」
声の主はエレンだった。アルミンと一緒に手を上げてこちらにやってくる。
「話はできたのかよ?」
「うん。ありがとう、エレン」
「…エレンがね、ミカサにシィナと話してこい!って言ったんだよ。ほら、前にシィナが東洋人だって聞いたから」
良くわからない二人の会話に首を傾げていると、アルミンがそっと教えてくれた。
たった一人の東洋人になってしまったミカサは、同じ東洋人である私のことを知って気にしていたらしい。
そんなミカサの背を、エレンは優しく押したんだ。
いつもと似たようなやり取りをしているエレンとミカサを眺めながら、やっぱり家族っていいなぁと思った。