キースと再会
「漸く来たか、ローゼス」
「は、はい。これからよろしくお願いします」
入団式の後、教官に呼び止められた私はそう返事を返した。
入団式で皆をどやしていたこの教官は、なんと第12代調査兵団団長だったキースさん。
団長がエルヴィンさんに代わって、キースさんはいつの間にかいなくなっていた。
どこに行ってしまったのだろうと思っていたけど、まさか訓練兵団にいたなんて。
そして、もう一つ驚いたことがある。
…髪が、ない。
「…なんだその目は」
「え!?あ、いえ!…その、」
「言いたいことがあるならはっきり言え」
そう言われては腹を括るしかない。言えって言ったのはキースさんだし。
「……か、髪の毛がないなぁと、思いまして…」
「…」
重い沈黙が流れる。
私を見下ろしてくるキースさんの視線が痛い。
やっぱり言わない方が良かったかも…と後悔するけど、時既に遅し。
こうなったらキースさんが何か言ってくれるのを待つしかない。
「…気になるか」
「き、気になりました」
誤魔化しても仕方ないので、正直に答える。
キースさんはそうか、と一つ頷いた。
「これは私なりのけじめだな」
「けじめ、ですか」
「今の私は訓練兵団の教官だ。何の成果も上げられず団長を辞したという負い目はあるが、いつまでも引きずっているわけにもいかないからな」
ふ、と笑った顔は自嘲めいていたけれど、きっと団長として尽力してきたからこそ出た言葉なんだろう。
兵団でもほとんど顔を合わせたことはなかったけど、そのくらいは私にも分かる。
「…話しすぎてしまったな。貴様相手だとどうも口が過ぎる」
顔を顰めるキースさんに言われ、そういえばリヴァイさんにも似たようなことを言われたなと思い出す。
『なんでてめぇにこんな事話してんだ』と、物凄く不機嫌そうな顔で。
そんなこと言われても、話してくれたのはリヴァイさんなのに。
ハンジさん曰く、私には不思議と色々話したくなるらしい。まぁハンジさんの場合、話のほとんどが巨人についてなんだけど。
「私が言いたかったのは、顔見知りだからと言って貴様を贔屓するつもりはないということだ」
「はい、分かっています。ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いします、教官」
敬礼してそう答えれば、キースさんは満足したように頷いた。
「訓練に励め。貴様の成果を期待している」
以前と同じようにそう言って、キースさんは先に戻っていく。
返事を返して、その背中に一礼した。