01

アスティは、魔法使いだ。

「ねえアスティどこくのさ」
「ほうきが作れそうな木をさがしにいくの」
「まって、ぼくも行く」
「え〜?」
「行くったら行くの!」

ジョーダンだよ。一緒に行こう。ひひひ。
この笑い方は最近おぼえたいわゆる、"マジョ子笑い"。まだ5歳だけれど、いっちょうまえに歯をイーッとして笑うようになった。

アスティが住む島にはたくさんの"ステキ"がある。
まずは木。大きい、太い木がいーーっっぱい立っている。ジョーブだからいいほうきが作れるんだっておばあちゃんが言っていた。たんぽぽが咲いているお家の前の小道にも、キラキラとひかるお野菜のスープみたいな湖のほとりにも大きくて優しい大木たちが背筋をぴん、としてたっている。ステキだ。木だけじゃない。ちょっと歩けばきれいな雪解け水の流れる川があって、そこにちっちゃなお魚がいたりする。ぴかぴかしていてステキ。あとは、アスティの友達である動物たちがいる。アスティがめいっぱい食べ物をやるものだからぽちゃっとしたうさぎとか、鳥とか、きつねとか。まだまだいっぱいいてステキ。

そんでもってなにより、大好きなおばあちゃんとロッソがステキ。おばあちゃんはまん丸の、つるのほそいメガネをかけていて、いつもくしゃっとして笑う。野いちごのジャムをとびっきりおいしく作ってくれるし、ほうきに乗ってとぶ練習をしていた日、坂道をころがうように転けてしまって、じくじくといたむ膝をひきずりながらわんわん泣いて帰って来た日には大好きなココアにマシュマロをのっけて抱きしめてくれた。おばあちゃんにウソはつけない。おばあちゃんはなんでもお見通しだから。おばあちゃんとおしゃべりすれば嫌な気分はすぐに消えていった。あと、マントからふわりと香る、優しいにおいが大好き。
ロッソはアスティのたいせつな猫。しっぽがふたつにわかれていて、ほかの動物たちとはちがってお話ができる。かっこいいでしょ?なーんて言ってはいるけど、どちらかというととかわいい。かわいいっていうと怒るので、お口はチャックしておく。

アスティのそばにママとパパはいない。亡くなってしまったらしい。でもさみしくなんてないのだ。アスティはこーーーんなにステキがいっぱいな島に住んでいるし、おばあちゃんもロッソもいるから。ママとパパには会いたいけれど、おはかの中で眠っているうちに、お星さまになれるっておばあちゃんが言っていた。きっとお星さまになって毎ばんアスティのお話をきいてくれるって。幸い、この島は星空がよく見える。アスティはきちんと毎ばん1日の出来事をママとパパにお話しする。ロッソも一緒に話してくれる時もある。
だからママとパパもさみしがらないでね。

「ロッソ、そろそろお家にかえろう」
「うん、今日はシチューだってさ!」
「きゃー!はやく帰らなきゃ!もうおなかぺっこぺこ」
「ぼくも」

結局今日もあんまりいい木は見つからなかった。おばあちゃんのほうきはケイケンホーフなので、もちろんアスティの身体的にも精神的にもつりあっていない。この間だって振り落とされた。あーあー、自分に合ったほうきが早く欲しい。けどシチューは楽しみだから今日は早く帰ろう。木はまた明日さがせばいい。

おばあちゃんがいるから。

ロッソがいるから。

さみしくないよ。うん。

ジョーダンだよ。ひひひ。
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