15

道端に大きな檻と、腹から血を流して倒れている男と、犬がセットで落ちていた。

「わぁあ!る、ルフィー!!えぇえ!ぞ、ゾロー!」

エライコッチャと慌てるアスティと対照的に、ナミは呆れたとばかりに何やってんの2人して…とため息を吐く。

「こんな道端で寝てたらバギーに見つかっちゃうわよ!」
「「よォ航海士」」
「誰がよ!!!」

結局、2人とアスティは入れ違いになってしまっていたらしい。実のところ、ナミの話を聞いても彼らがどんな状況下にいるのかよく理解していなかった。平和ボケした頭で、″バギー一味と闘った″という言葉はどこか現実的に考えられなかったので、やっと納得できたような気がした。

「おっ!アスティもいる!ナミが拾ってくれたのか!」
「この子一人にして何考えてんのよまったく信じられない一回地獄落ちてよね」
「めちゃくちゃ言うな…」

ナミは一息で暴言を吐くと自分は助けてもらったお礼をしに来ただけだと言って何かのカチャリと鍵を放り投げた。いささか言い過ぎではあるが、そんなことよりアスティはゾロの真っ赤に染まる腹巻きが気になって気になってハラハラしていた。何があったのか、何故あの状態で普通でいられるのかわからないらしい。早く手当てがしたいと汗がにじむ。

ルフィはへら、と笑ってアスティ〜と手を振っていたが、鍵が転がる音を聞いて嬉しそうに、あ、鍵!と声を上げた。よほどこの檻から出られなくて焦れていたのだろう。ゾロでさえホッとしたような顔を見せている。そしてルフィが意気揚々と鍵に手を伸ばした瞬間。犬がその鍵をパクリと咥え、ゴクリと飲み込んでしまった。

「このいぬゥ!!!吐け今飲んだの!!!エサじゃねェぞ!!!アスティ魔法だ!!!」
「エッ」

まるで爆発音の如く声を張り上げるも虚しく、鍵は犬の体内へと消えてしまった。ルフィは犬と喧嘩しはじめる。

「ええ…犬と喧嘩する人はじめてみたや…」
「ぼくとよくするじゃんアスティだって」
「う、うるさいなぁ」
「猫も犬もかわんないよ。…アレ?」
「どしたの?」
「誰か来る」

ロッソがヒゲをぴるると動かした。

「くらっ!小童ども!シュシュをいじめるんじゃねェ!」

甲冑を身にまとった、メガネの小柄な男が通りから姿を表した。アスティは、この人?とロッソに問いかける。ウーン、と微妙な反応を示したので疑問に思ったが今は気にしないことにした。

「シュシュって、このわんちゃんですか?」
「そうだ」
「誰だおっさん」
「わしか。わしはこの町の長さながらの町長じゃ!」

***

「ゾロは?」
「休ませて来た。となりはわしの家じゃ」

自己紹介をしてくれたブードルさんは深手のゾロを抱えると、自分のお家の客間へ寝かせてくれた。アスティはいつ手当てしたらよいものかと会話の最中もずっとハラハラしていたので、どさりと寝転がる彼を見た時はとても安心した。避難所へ行けば医者が居るとブードルが言っても寝たら治るといって動かなかったので、アスティはおばあちゃんにもらった傷薬を、ゾロのぐじゅぐじゅした脇腹に塗りたくる。初めて大きな怪我を目の当たりにして、手が震えた。そして、さっきの別れ方を謝った。ゾロはキョトンとしてから、ふと笑って、気にすンなと言ってアスティの髪をぐしゃりとして撫でた。
その後、大きないびきをかいて眠り始めたのを見て、ホッと息をついてからブードルと一緒に家を出た。

ルフィは相変わらず檻の中からブードルに問いかける。

「こいつここで何やってんだ?」
「店番さ。わしはエサさながらをやりに来ただけさながらなんじゃ」
「あ!本当。よく見たらここお店なんだ!ペットフード屋さんか」

さながらってなんだろう。ロッソは首を傾げる。

3人がテンポよく話しているのを尻目に、アスティはエサを食べているシュシュの体の傷に濡らして来たハンカチをあてがい、血が固まってしまっている部分を丁寧に拭い、さっきと同じ薬を少量つけた。ロッソもたまにお世話になる薬なので、問題ないだろう。エサを食べ終えたシュシュはまるでお礼をするかのように、アスティの手の甲をぺろりと舐めてみせた。思わずにこにこしてしまう。犬っていいな…。
この浮気者め、というロッソの恨みがましい声は聞こえなかったふりをした。

ブードルの話によれば、シュシュの主人と彼は親友で、この店の主人。彼はシュシュと共に店を営んでいたそう。主人が病気で亡くなってしまった今も、思い出がつまった大切なお店の店番をしていると言う。手のひらに頭を擦り付けてくるシュシュを見て、ブードルはお前に懐いたみたいだな、と優しく微笑んだ。

「きっとこの店はシュシュにとって宝なんじゃ」
「宝?」
「ああ。大好きだった主人の形見だから、それを守り続けとるのだとわしは思う」

ふわふわの毛並みが心地よくて、その感触を楽しみながらシュシュの毛で遊ぶ。気持ちがいいのか目を細めている。ブードルが何度避難させようとしても動かないという話をき聞いた時、アスティはさっきまでの自分を思い出して笑ってしまった。

「グォオオオオ!!」
「え!?」

シュシュの話でちょっぴりしんみりした空気を壊すかのように、鋭い獣のような声がどこからか聞こえて来た。ずしんずしんと大きな足音も聞こえる。アスティ、ナミ、ブードルは肩をビクつかせ声がした方向へ目をやる。

「来た。この気配だよアスティ」

ロッソがまたヒゲを震わせる。警戒している時のサインだったはずなのに、気に留めなかったことを後悔した。

「な、何この雄叫び!」
「こ、こりゃあいつじゃ!”猛獣使いのモージ”じゃ!」
「「逃げろーーー!!!」」
「ほらアスティも!」
「えっまって、シュシュとルフィ!それにゾロも…!」

いいから逃げるの!とナミに強い力で手を引っ張られる。でも、と口を開こうとすれば、ブードルの小脇に抱えられ、そのままその場から離れてしまった。
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