14

「もうだいぶ酒場から離れた。とりあえずすぐには追っちゃ来ねェだろ」

アスティ別れた後、男たちと道化のバギーに会うべく、その島の滞在地である拠点へとたどり着いたゾロ。しかし何故か己の船長が檻に入れられ大砲を向けられ、散々な状況下であった。さらに何故なのか細腕の女に守られている。恐らくバギーの一味であろう男たちがドッとその女へと襲いかかるので、何をやっているんだという腹だたしさを男たちへ振りかざしたのだった。

バギー一味との激しい闘争の後の末、やっとの想いで出奔したはいいが、バラバラの実の能力とやらで深手を負ってしまった手前、このまま順調に逃げ果せることは出来ないだろう。あの泥棒だと言っていた女の姿も無い。先の一件で、檻の中に閉じ込められてしまった船長は戦力外であることはもちろん、己も出血多量。重たい檻をズルズルと引きずる手は冷たくなり始めていた。息を乱しながら気力だけで足を動かす。

「しかし、いったん退いたはいいが、この檻はやっかいだな…」
「そうなんだ、これが開かねェとあいつが来ても何もできねェよ!」

バギーをぶっ飛ばす宣言を声高に叫んでいた
ルフィはガヂガヂと非常な鉄格子を噛む。どうにかこうにかして出れやしないかと試みるが、特別解決策が思い浮かぶ訳でもなく、とりあえずかじりつき続ける。そこで、ふと青い瞳の彼女のことが頭に浮かんだ。

「おいゾロ」
「んァ?」
「アスティは?」
「あぁー…置いて来た」
「どこに」
「安全な所見つけろっつといたから、避難所じゃねェか」
「なら良かった!ありがとう!」
「…おう」

好奇心旺盛なルフィのことなので、なんで置いて来たとまた一悶着あるかと身構えたが、むしろいい笑顔で感謝されたので拍子抜けしてしまう。それどころか、次会う時が楽しみだとばかりに笑みを濃くしている。まさにいたずらっ子のそれである。

「にしし、スネたろあいつ」
「スネた。…連れて来たほうがよかったか?」
「いんや!あぶねェからダメだ」

どうやら自分の選択は間違っていなかったらしい。意外と面倒見が良いというルフィの新しい情報もそこそこに、ゾロは置いて行く前のあの捨てられた子犬のような目を思い出して後でなんと声をかけたらいいものかとため息を吐いた。

***

「ね、ねェちょっと!」
「うわビックリした!」
「あ、ごめんなさい」
「いえいえ。…ってあれ?女の人だ!」

ロッソが気づかないなんてすごいなあと能天気に笑顔を見せるまだあどけなさの残る面影を、子供の頃に出会ったあの少女と重ねる。金色のシルクのようなふわふわの髪の毛に太陽に照らされて光るサファイアの瞳、黒いワンピース、大きなショルダーバック、肩の黒猫。どれを取っても、あの日の魔女であることは一目瞭然であった。きっと首からはあのキラキラ光る透明な魔法石をさげているのだろう。

話しかけてから口を閉ざしたままでいるナミに、アスティは首を傾げて不思議そうにしている。それどころか、俯いて何かを耐えるかのように拳をぐっと握りしめている様子に、心がざわついている。
具合でも悪いのかな…背中をさすってみようかと近づくと、ふわりと潮の香りと共にみかんのような香りがアスティの鼻腔をくすぐった。そこで、パッとナミの顔を見上げる。あの時の記憶が、アスティの頭に流れ込んでくる。初めてできた、女の子のお友達。

まさか。

「な、…な、み」
「…!」
「ナミ?」
「…」
「なっ、ナミなの?」

アスティはパアと笑顔を咲かせる。そしてぎょっと目を見張った。

「えええ!?なんで泣いてるの!?」

涙を流していた。ナミもまた昔とあまり変わらない愛おしい少女を見て色褪せない記憶を引っ張り出していた。
小さな頃、この子の言葉にどれだけ救われたか。いつか、また、どこかで会う。たったひとつの口約束がどれだけ心の支えになったか。わたわたと、黒いワンピースの裾を伸ばしてナミの瞳からこぼれ落ちる涙を大切そうに拭うアスティに、へにゃりと笑って見せた。

「アスティ、久しぶり」
「うん、久しぶり」
「ロッソも、久しぶりね」

ナミがロッソの頭をふわりと撫でてやると、嬉しそうににゃおんと甘えた声を出す。

「ナミ、きれいになったねえ」
「ふふ、でしょ」

優しい手つきで背中を撫ぜるこの小さな手のひらを、今回は絶対に離さないと心に決めたのだ。

***

アスティはここに来るまでの経緯をナミに全て話した。彼女は話を全部聞いた後、「ちょっとあのバカども殴るわね」と青筋を立ててどこかへ行こうとする。何かの冗談かと思ったが、ナミはあの2人と出会っていたらしい。詳しく聞けば、ナミはまだお金を集めているらしく言うなればターゲットにしていた海賊たちに追われていたところにルフィが現れ、あれよあれよという内に大変なことになってしまったらしい。今はバギー一味から逃亡中の真っ只中であるとのこと。

アスティは、ナミが2人の居場所を知っているならついて行くことと、まずは犬の手当てだけ先にさせてほしいと申し出た。結局、犬がどうしてもその場から動かないことがわかったアスティは、ボロボロの体にまだ癒えていない傷があることに気づいたので、とりあえずはそれだけでもきちんと手当てをするべく、水道を探していたのだ。そしてハンカチを清潔な水で濡らした帰りに、ナミに出会った。

手当てがしたいと訴えるアスティに、ナミは「もちろん」と清く頷くと早速歩き始める。

反対方向に。

「ナミ、そっちじゃなくてこっちだよ」
「え?」
「わんちゃんがいるほう、こっち」
「…?こっちじゃないの?」

きょとんとした顔をしているナミに、どうしたのかとアスティまできょとんとする。

「いや、あの2人がいる方向よ。そっち」
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