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ゾロなんて嫌い!!

アスティは自分が開ける最大限の歩幅で、ズンズンと足を進めていた。今さっき降り立って、初めて来た島なのでこれっぽちも自分がどこに向かっているかわからないけど、とにかく港から離れられればよかった。

海賊たちの案内のもと、人気のない島におりたった4人と1匹。アスティはググ、と伸びをして背骨が鳴るのを感じた。海賊たちが自分たちのリーダーに合わせる顔が無いと冷や汗を流して何やら話しているが、ゾロは歯牙にも掛けず、ルフィの情報が聞けるかもしれない、そのバギー船長のもとへと案内してくれと申し出た。すごい!なんだか海賊っぽい!彼らが両者ともに正真正銘本物の海賊であることを、どうにも頭から放ってしまうアスティは瞳をキラキラと輝かせた。さながら自分はゾロの一の子分であるとでも言うように、意気揚々と彼らについて行こうとしていた所、無慈悲なセリフが飛び出して来たのだ。

「アスティは安全な所で待ってろ」
「っえーーー!?なんで!?」
「なんでって、当たり前だろ。待ってろ」
「やだやだ!ゾロの子分だよわたし!」
「いつなったんだ!子分なんかいらねェ待ってろ」
「いや!」
「待ってなさい」
「い!や!」
「…おい、てめェらいくぞ」
「えっ、いいです?完全に不貞腐れてますけど…」
「…あとで土産でもわたしゃいいだろ…」

ききき聞こえとる!!!お土産なんかで機嫌治んないし!!子供じゃないんだから!
キィー!と頭に血が上って顔が真っ赤になっているのが、自分でもわかった。そうして冒頭に至る。周りを全く見ずに歩いたので、かなり船着場から離れたことにようやく気づく。寂しくなって足を止め、後ろを振り返る。

「…」

辺りはしーんとしていて、誰の姿も、声も、気配ですらも感じない。こんな時、ルフィがいたらきっと連れてってくれるのに。ゾロの石頭め。根拠はないが今はゾロを悪役にしたかった。

せっかく久しぶりに出会って、たくさんお話しして、短い時間になるかもしれないけど、ちょっとの間だって仲間になれたと思ったのに。せめて、ルフィを見つけるまでは。アスティの安全を考えて置いていったことも理解できるから、殊更大人な対応を強調されたみたいで腹の中がムカムカするようだった。こんなに感情的になったのは、初めてな気がして重たいため息をついた。

「ゾロ、許してくれるかな…」
「アスティ、そういうの反抗期っていうんだよ」
「ちがうよぉ…」

情けなく眉尻を下げて、後ろからついて来てくれていたロッソを抱き上げる。ロッソはそのままアスティの肩に登り、ぴるぴるとヒゲを動かす。

「アスティ、この先に多分、誰かいるよ」
「え?この街の人かな?というか何で人が全然いないんだろ?」
「アスティってほんと話聞かないね」
「うるさいなぁ…」
「とにかく行こう」

じろりと可愛くないことばかり言う黒猫を睨んでから、気持ちを切り替えるつもりで今度はゆっくりと歩き始めた、その時だった。

ドォォオン。
爆音と共に近くの建物が何かに吹き飛ばされる。

「!?ぅわぷっ」

その凄まじい衝撃波に押されて前のめりになり、そのまま転ぶ。急いで起き上がって吹き飛ばされた家屋を見ると、立派に立ち並んでいた建物たちの変わり果てた姿が飛び込んできた。

「あ、あああ、ああ…!?」

もしあの中に誰かいたら大変だ。駆けつけようとしたが、ロッソが何があるかわからないし、危ないからやめておいたほうがいいと止めに入る。誰の気配も感じないから、大丈夫だろうということも付け加えた。確かに、と納得するがもしあと少しでも遅れていたら、あの家々たちと共に吹き飛ばされていたのかもしれないと考えると嫌な感じが背筋を駆け巡った。

「わ、わかった…あ、でもこの先に人がいるんだよね?知らせに行こう」
「うん、人かどうかは保証しないけど」
「え?」

***

「わんちゃんだ…」

ロッソの言う気配のする方へ急げば、そこには一匹の犬がおすわりをした状態で佇んでいた。てっきり人が出てくるとばかり考えていたので、肩の力が抜けてしまう。
しかし、犬であろうともこんな所にいたら危ない。どこか安全な所に移るべく、抱っこしようと試みる。が、グググと体をこわばらせて動かない体制をとるので、やむなくそのまま下ろしてしまった。周りをキョロキョロと見渡してみても、やはり人っ子一人おらず、もちろんこの犬の飼い主らしき人物も見当たらない。

「うーん…何か訳があるのかな?ロッソ、なんかお話ししてくれた?」
「ううん、ここを守るとしか言ってくれない」
「ここ?」

ロッソは他の動物と話ができたので、何か聞き出そうとするが、警戒心が強いのかはたまた意識が強いのか、有力な情報は得られなかった。
アスティは改めて、この犬が守るといって離れない建物を眺める。大きな文字でペットフードと書かれているので、ペットフード屋であることは明白だ。しかしどこにも店主の姿が見当たらない。ここの島の人たちはどこにいるのだろう?この犬は番犬なのだろうか?だとして、こんな所に自分の犬を置いていくのだろうか?頭の上に大きなハテナを浮かべている。

「わんちゃあん…あぶないよう…逃げよう?」
「ワン!!!」
「逃げん!!だって」
「そんなぁ…」
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