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ここで問題になってくるのが、アスティの使える魔法が万能ではないということである。というのも基本的に魔法というものは、使えるようになるまでの条件がいくつか存在しているのだ。たとえば空を飛ぶにしても、相性のいいほうきと風や空気、いろいろなものが共鳴して初めてふわりと宙に浮くことができる。その身一つで飛ぶことは絶対にないと言える。さらに何でも知っていて、”杖”を持っているおばあちゃんならまだしも、アスティは無から物を創り出すことはできない。彼女は世間知らずなのでむしろ不可能なことの方が多いだろう。できないといったらできない。

「アスティなんかできねえのか!」
「できないよ…!」

チクショウ。ゾロは苦虫を噛み潰したような顔でもらした。その言葉を聞いて、ギクリと肩を跳ねさせる。自分がまだまだ未熟者でなんでもできるわけではないということは重々理解していたつもりだったが、いざハプニングが起こると狼狽えてしまう。しおしおと縮こまったアスティを一瞥して、しまった…と思わず出そうになる舌打ちを口の中に押しとどめるが、八つ当たりのようになってしまった。思ったことと、口が直結している自分に嫌気がさす。なんと声をかけていいかもわからず、ひとまずルフィを追いかけることに集中しようと、オールを強く握った。

「じゃあわたし見失わないように、ルフィ見とくよ」
「…まかせる」
「うん!」

本当はオールが2セットあればよかったのだが、船を見たところなさそうだし、ついでに漕ぎ方もわからない。なのでとにかくゾロが背を向けているルフィが飛んで行ってしまった方向をふんっとか何とか言いながら、さして視力がよくなるわけでもない目で見つめた。にしてもゾロはすごい。ぐんぐん進んで行く。やっぱり海王類とのハーフか何かかな。ロッソが肩口から小さくそんなことをつぶやくので、ブッと吹き出してしまった。

「何だ」
「んああーなんでもない」
「いやどう見てもあるわ」
「きにしないで!」
「はァ?」

やってしまった。蛇に睨まれた蛙のごとく冷や汗をかく。さほど怒っていないことは空気からしてわかるだが、いかんせん目つきが悪すぎて本当に海王類とのハーフに見えてきてしまう。ううっ怖い、と真っ直ぐ前を向きなおしたところで海にチラつくようにして何かが見えた。話をしていたことも相まって、よく聞こえなかったのだろうか。耳をすませば男の声が聞こえる。しかも複数。

「たすけて…?ゾロ、あの人たちたすけてって言ってるよ…!」
「ん!?遭難者かこんな時に」

ぐんぐん進む船はスピートを緩めることなく、その男たちに近く。あまりにも急に遭難者に出会ってしまい、ゾロに睨まれていたことなんてスポーンとどこかへ飛んでいってしまった。遭難者たちを助けるべく、彼の背後から船の中央へ抜けて手を伸ばそうと試みる。が、よく見ると3人もいる。肩外れないかな…。アスティが青ざめると同時にゾロが3人組に大きく叫ぶ。

「船は止めねェ!勝手に乗り込め!」
「な、なにい!?」
「ゾロそれは無理があるんじゃ」
「いいからおまえはおれの後ろにいろ」
「ハイ」

こわいから睨むなとばかりに、すごすごとまた定位置に戻った。その間もどんどんと船はスピードに乗り、あっという間に3人の元まで来るとそのまま突き進んでいる。うわあ本当にこの人止めなかった…。ドン引きしながらゾロを見ると、何だよと睨み返されてイエ何デモと身震いした。

男たちは無事に乗り込めたようで肩で息をしていた。そんな彼らにゾロが(不敵な)笑みを浮かべながらよく乗り込めたと言うとするどいツッコミが帰ってくるコミカルな掛け合いに、アスティもすこし面白がってしまう。ロッソもくすくす笑っている。

「ハア…ハア…」
「何て乱暴な奴だ…!」
「後ろにかわい子ちゃんまで乗せてやがるぜ…!」

3人組のうちの一番丸い体型の男がアスティを見て目を三日月のようにした。ロッソが舌をだしてうええと鳴く。猫にあるまじき声だ。かく言うアスティもヒィと目を逸らす。すると不意に男たちがぐっしっしっしっしと特徴的な笑い声を不気味にあげる。そしてギラリと鈍く光る剣をゾロとアスティに向けた。

「おい、船を止めろ。おれたちァあの海賊”道化のバギー”の一味のモンだ」
「あァ?」

この船で、そんな剣にも負けないほどギラつくのはゾロの瞳だけである。ゴクリと誰かのノドが鳴った。
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