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大きなコブを頭に乗せていた。ちょこんと座ってその大きな目をパチクリと瞬かせている。アスティは目の前で同じく頭にコブを乗せ、正座しているルフィと、腕を組んで座っているゾロの顔を交互に見つめた。

自分は確かおばあちゃんの手伝いのためにほうきで空を飛んでいたはずなのだ。ただちょっと町がある方向がわからなくなってカバンから地図を出そうとしていた。飛びながらバランスを保ち、いつもより荷物が入ったショルダーバッグを漁るのは少し難しくて、スピードを落としていた所で海から矢の如く飛んできた何か石のようなものがアスティの頭部にぶつかった。そこからの記憶が一切ない。うーん、と考えてみてもズキズキとコブが痛むだけだった。

「すみませんでした」

すると、ルフィが三つ指をついて恭しく頭を下げる。起きたばかりのアスティには、なぜルフィがゾロに一発ガツンとやられているのかわからないし、なぜその後自分に謝っているのかもわからなかった。そもそもこの2人が何者なのかもわかっていない。

「あああ、頭を上げて…!」
「ごめんなあああアスティ〜!」
「えっ」
「え?」
「え??」

なぜわたしの名前を…。小首をかしげ合うその姿はなかなかに変てこりんで、ルフィの頭を一発殴ってから無言だったがゾロが煮ても焼いても食えないこの状況に、拉致があかないと一歩前に出る。アスティは距離の縮まった彼の顔を不思議そうに見上げた。

そして目を見開く。

「あっ!?ゾロ!」
「おう」
「ぞ、ゾロ!」
「おう」
「ゾロー!!」
「だァ!何回も呼ぶな!抱きつくな!」

アスティはやっとこのグリーンヘアの男が、4年前に出会った男であることに気づく。久しぶりにあった彼は昔よりもずっと逞しく男らしくなった様に見える。うれしくなって抱きついたがベリリと剥がされてしまう。彼女はなるほど眼光が鋭いわけだと半ベソをかいた。

「なァんだおまえら知り合いか!」
「おまえこそ何でアスティ知ってんだ、ルフィ」

ルフィとはこの麦わら帽子を被った少年の名前なのだろうか。アスティはしばらく何も考えずにぽやんと彼の顔を眺めて、小さくルフィと声に出した。ほとんど無意識である。

「ん?」

少年は暖かくてまぶしい笑顔をアスティに向けた。キラキラと輝いて、ニッコリと効果音が聞こえて来そうなほど満面の笑みを浮かべて、あれ?彼は。

「ルフィ?」
「おう!ルフィだ!」
「る、るふぃ」

ボロボロと大粒の涙が頬を伝った。彼が。そうか。彼が。やっとあえた。


ルフィとゾロは次から次からあふれてくるアスティの涙にギョッとすると慌てて、どうした!?どこか痛いのか!?コブか?コブが痛いのか!?と背中やコブ(痛い)をなでたり、大きな手にくっついた親指で乱暴にアスティの涙を拭ったりして忙しない。大丈夫か?と顔をのぞき込んでいるルフィの眉間には心配しているからなのか、クッキリと深いシワが寄っていた。
ワンピースの裾をキュッと握りしめて、涙を流しながらもアスティは彼の目をまっすぐ見つめる。下まつげにひとしずく引っかかっていた。

「ルフィ、あいたかった」
「…おう!あえたな!」
「よかった、ずっとあいたかったんだよ」
「おれもだ!あれからいろんなことあったんだ、全部全部話してやるからな!」
「うん、うん…!」

ルフィともう一度あえたこともうれしかったが、しっかり自分のことを覚えていてくれた事が何よりうれしかった。初めてできた友達だから。温かい気持ちがあふれて涙が一向に収まらない。ルフィが泣きやめよゥとまた親指で拭う。ゾロは口元に笑みを浮かべて海の遠くを眺めていた。

***

「へェ〜〜!おまえらゾロの島であってたのか!」
「おー。そん時もこいつベソかいてたけどな」
「アスティ泣き虫だなー」
「めんぼくない…」
「どんなキャラだよ」

どうやらこの船の上を飛んでいたアスティを鳥だと勘違いして、ルフィが攻撃してきたらしい。その拳は鋼に等しく固かったに違いない。アスティは口元を引きつらせた。

にしても、こいつが魔女ねェ…とゾロはルフィと楽しげに話すアスティを改めてよく見てみるが、あんまりピンとこない。透明感のある真っ白な肌に、ハニーブランドの髪がふわりとなびく。そんなキラキラした長い睫毛に縁どられ、海の色をそのままうつしたかのような青くきらめく大きな瞳。これらは4年前と全く変わらない。体格もさほど変わらないように思える。ぷくりとした頬はまだ少しあどけなさを感じられ、差し引いても魔女だなんて言葉が彼女から連想されることはなかった。

驚くべきことに、この魔女はルフィとゾロ、両者とも、何年か前に出会っていた。もちろん、その時の記憶は昨日のことの様に思い出せる。口から心臓が出るくらいビックリして、ほうきで飛んだり、子どもたちから逃げたり、一緒にオムライスを食べたり。ゾロなんて、どんな血も涙もない鬼かと怖がっていたら、案外優しくてホッとした。ルフィと交わした約束だってしっかりと覚えていた。どれもすべて愛おしい思い出だ。

「な!だからアスティ、海賊やろう!」
「海賊…」
「おう、おまえも好きだろ?冒険!」
「う、うん…」

アスティは浮かない顔をしている。膝の上で心地よさげに眠っているロッソの狭い額を右手の親指でゆっくりなでていた。ルフィはそんな様子を見て口を閉じてしまう。

「あー、腹へった。ルフィ、見ろよ」

ゾロがそんな漠然とした雰囲気を壊すかの様に、声をあげた。そしてルフィに上空を顎でしゃくってみせる。2人そろって上を見上げると、大きな鳥が船の上を旋回していた。バサバサと羽音が聞こえるので、今度こそ本物の鳥で間違いないだろう。ルフィの腹が空腹を思い出したのか、地響きに似た音が響いた。

「よし!!今度こそ鳥食おう!!」
「えっ、鳥食べるの」

この人たちおなかすいているのか。わたしのサンドイッチでよければ食べるかなと思った時には時すでに遅し。行動力の鬼と化したルフィはゴムゴムのロケット!!とかなんとか言ってその場からこつ然と姿を消してしまう。太陽が随分と高いところまで来てしまっていた。アスティは日よけに手のひらを使って一瞥してから、ゾロに驚嘆の顔をして見せた。彼はそんなアスティにくつくつと笑う。

「はっ!」
「「は!?」」

不穏な空気を感じ取り、2人でグリンと上を見上げた。

ルフィは、頭を大きな鳥にくわえられている。

その鳥はまたバサリと羽音を立てて彼を連れて行ってしまう。

「ぎゃーーーー!!助けてーーー!!」
「あほーーーー!!!!」
「うわあああルフィィィィ」

まさに絶体絶命。ルフィはそのまま空のかなたへと飛んで行ってしまう。アスティはムンクの叫びさながら青ざめて、ゾロを見た。彼はは一体何やってんだてめェはァ!!!と叫びながらオールを勢いよくこぎ始める。ガクンと後ろに倒れかけて、グッと踏ん張った。

「おいアスティ、おまえ飛べんだろ!ほうきに乗ってアイツ追いかけろ!」
「え、あっ、うん!!」

そうだわたしはほうきで飛べるんだ!まさか今の今までパニックで頭が真っ白だったなんて、ゾロの剣幕を前にして言えるはずもない。慌ててわたしの相棒はどこかと見渡して、すぐ足元に落ちていることに気がつく。

「あ、あった!よかった、ここに落ちて…」
「…」

あああ…ほうき、真っ二つに折れとる…。
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