「綺麗なお嫁さんですね」

この度長い付き合いである彼女と結婚する事が決まり、トントン拍子で準備を進めているわけであるが、彼女は記念日ですら覚えてないような人間である。自身が結婚式で着るドレスだってこだわりもなく決めてしまうに違いない。一人で来たあげくには一番安いヤツで、なんて言いかねない。アホか。人生最初で最後の結婚式であるのだから、とびっきりのウェディングドレスを嫁に着て貰いたいそしてあわよくばみせびらかしたいと思ってしまう新郎は俺だけではないはずである。

▼ 挙式5〜3ヶ月前 ドレス衣裳を決める

ドレスショップの奥にある試着室に消えたなつを見送ってからそう時間は経って居なかったが、やはりそわそわする。ソファに座り直すようにグリグリと尻を押し付ける。腕を組んでいるが落ち着かず、しきりに右左組み替えたり、見事なもんである。

そんな様子を見かねたのか、スタッフであろう一人のお兄さんが冒頭のセリフを放った。

ありがとうございます。なんて。何だか改めて彼女が身内になるのだと、実感してしまい恥ずかしくなって目を逸らしてしまった。

「何かご希望のスタイルのドレスなどございましたか?」
「あー、無いですかね、彼女無頓着で」

行きの車の中でどんなドレスがいいかなつに聞いてみたのだが、あんまりハッキリした答えが返ってこなかったのを思い出し、その旨を伝えるとお兄さんはキョトンとした顔をしてから、おかしいですねと顎に手を当てた。不思議に思って何がですか?と身を乗り出してしまった。

「お嫁さん、ドレス入念に選んでらっしゃいましたよ」
「えっ」

嘘をつけよ。あのなつが?入念に?マジかよどういう風の吹き回しだ。なんて失礼極まりないが、そう思ってしまうほどまでに車内での反応が悪かったのだ。

「マジっすか?」
「ええ、何でも彼を喜ばせてあげたいとかなんとかで」

爽やかに笑ったお兄さんの言葉に顔が赤くなるのを感じで、スッと両手で隠した。

お兄さんはクスクス笑ってた。

ちくしょーあいつ、今日はご馳走じゃ。


貧しいときも、

花嫁姿を見るのは当日までオアズケ


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