好きなことをひとつひとつ確認するのが好きだ。トゥーシューズのリボンを丁寧に解く感覚に似ている。さっぱり心地よくて、なんだか切ない。

いつも思うけれど、レッスンの帰り道に嗅ぐ、あのどこからともなく漂ってくるカレーの香りが好きだ。夏の夕方の風がピリリとしたスパイスの香ばしい独特の匂いを運んできてくれるので胸いっぱいに吸い込んで、いつもその日の晩御飯について和香と話すのだけれど。

「よっこいせぇと。はー荷物重」
「ババァじゃん」
「な。ちょ、和香、くんくんしてみ?」
「ん?……カレーだ」
「今日カレー鍋になんないかな」
「無いな。キムチ一択だわ」
「手厳しい」

毎年発表会の後、和香と一緒に大きな荷物を抱えて歩くのが好きだ。ゆっくりゆっくり歩いて、たまに荷物を背負い直して。またゆっくり歩き出す。一歩ずつ一生懸命。ちょうど3年前にもこんな気持ちになったっけ。

和香が真っ赤に染まった空を見上げている。わたしは彼女の、ぷかぷか浮かんでいる雲をぼんやり数えるみたいにのんびりした話し方が好きだ。

「川さんて本当に天才だと思う」
「何を藪から棒に…」
「あやさんも普段あれだけど踊ったらすごい」
「あの人は性格で損してる」
「言えている」
「言えているよな」
「でもきっと誰よりもちゃんとみんなのこと理解してる」
「そーね」
「川さんもみんなのこと理解してるけど」
「そーねぇ」

くすくす笑って、浮かんできた涙を親指で拭う。和香はいつの間にか足元に視線を下げていて、とっても小さな声で綺麗だったと呟いた。
和香は褒めるのが上手だ。伝えたいことをわかりやすい言葉でしっかり相手に言える。だからわたしは、彼女に褒められることが一等好きだ。

きっと、この先もこうして2人でゆっくりゆっくり歩くのだろう。ひとつひとつ、丁寧に確認して、トゥーシューズのリボンを解いて、また綺麗に結び直していくのだろう。
ふ、と夕方と夜の境目に歩く彼女の後ろ姿を視界に入れる。
彼女はとても美しく歩く。例えばそれは川さんとあやさんも一緒で、彼女たちは綺麗な翼を羽ばたかせて、歌うように、キラキラと歩くのだ。

そしてわたしは、美しいものがほんとうにほんとうに好きなのだ。
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