くろおさんとデートした帰りの夜行バスにて
※ツイッターじゃないよ!
本気だからな。
彼の切なげな声がわたしの耳朶に残っている。
宮城に帰る夜行バスはしんとしていて、薄暗い。カーテンを引いた内側へ潜り込んで、こめかみを窓に預た。外に早々と流れていく高速道路の電灯が見える。
まぶたを閉じればよみがえる、なんてよくあるラブソングのワンフレーズみたいだけどなるほど共感性があるからヒットするんだなあ。眠気はあまりないが、そのラブソングに習ってまぶたを閉じてみた。
本気?そんなのずっと前から気付いていた。
ずっと前?それっていつ?
うーん、ふとした時に見せる優しげな笑みも、それからちょっと寂しげに見える横顔も、わたしの頭に触れようとしてさまよって下げられる右手も、別れ際に耳元で好きだと囁く声も、全部全部からかおうとして見せるソレでは無かった。
好きってなんだろう。
ぼんやりと頭の中に2文字並べてみる。バレエが好き。バレエ一筋で、きっとこの先もずーっとわたしにはバレエしかないと思ってた。まさかこんなわたしが、高校生になってそうそう色恋沙汰で悩まされることになるなんて誰が想像しようか。黒尾さんとの関係を包み隠さず逐一報告している相手は和香くらいしかいないし、中学でもませてた子たちは他校に好きな人が出来ただとか話してた気もするが、いかんせん元よりそういった類いの話題に興味がなく疎かった事もあり、まったく覚えていない。あの時真面目に聞いていたら何か変わっていたのだろうか。
いや待てよそもそもわたしは何にこんな悩まされているんだ。ん?悩んでんのか??ん???やべ分かんなくなってきた。
好きだよ、愛ちゃんだって。
本気だからな、だって。
「はあ」
ため息を吐くとガラスが少しだけ曇った。
もしわたしが黒尾さんの気持ちに応えたらどうなるんだろう。
もし、たとえば、今度会う約束した日に、また好きだと伝えられて、ちょっとだけ間を置いてから、わたしも好きですって黒尾さんの両手を握ってみるとする。
彼はどんな顔をするだろうか。
嬉しそうな顔をしてくれるだろうか。
握り返してくれるだろうか。
想像してから顔があつくなっている事に気づく。うわ、恥ずかしい勝手に想像して勝手に顔赤くしてる。
バスのシートの上で三角座りをして両膝に眉間をぐりぐりと押し付ける。
だけど、もしそれが本当になったら。
それって、もしかして、今日見せてくれた笑みをわたしだけに見せてくれて、寂しそうな横顔がいつもの勝気な顔になって、右手がまっすぐわたしの頭に乗せられて、
好きだよって言われて、わたしもですよって言ってみたりするってことなのだろうか。
今日1日見てきた黒尾さんのいろんな表情を思い出す。
それってもしかして、彼のもっと違う顔を見て、いろんなことを知れるってことなのだろうか。
目を開いて、また電灯をぼんやり眺める。
黒尾さんが幸せそうに笑ってくれるのって、悪くないかもしれない。
そしてきっとこういうのを青春っていうのかもしれない。