惚れた方が負け、なんてよく言ったものだ。
海とスケジュールを合わせて、携帯のカレンダーに書き込む。ハートをつけておいた。完璧だ。
ふぅーと大きく息を吐いてソファに身を沈ませる。日に日に好きが止まらなくなってる。このまま行くと宮城に家を持ちそうだ。金ねえし未成年だけど。
用もないのに愛ちゃんとのトーク画面を開く。この時間、彼女はせっせとバレエに勤しんでいるのだろう。
「…会いてえ〜…」
とんでもなく骨抜きにされたもんだと、彼女の何が一体こうさせるのかと、考えることは沢山あるけれどやっぱり中心には笑顔の愛ちゃんがいて。
ぱっと花がほころぶかのように笑う人だと思った。表情がコロコロかわる、可愛らしい人だと思った。はあ、と熱いため息が溢れる。
初めて愛ちゃんを見た時、彼女から目が離せなくなった。レオタードを着た彼女はちょっとだけほぐれたお団子を気にしながら体育館に飛び込んできた。少しして自分が間違えて入ってきたことに気づいたのか、恥ずかしそうに去って行ったのをみてとにかく体が勝手に動いた。左脚が動けば、あとはもう全部連動するかのように。何がいちばん前に出ていたって、きっと心。心が一番前のめりになっていたに違いない。何かが彼女を逃すなと叫んでいた。
やっくんたちが俺を呼ぶ声が後ろで聞こえたので、ちょっと行ってくるとだけ声をかけて体育館をでた。
いや、追いかけてどうすんだよ。
キョロリと辺りを見渡せば、まだすぐ近くに彼女の後ろ姿がみえた。きっと普段はいいのだろう姿勢をくずして、少しうなだれながらまた歩き始めた。バレエのレッスンが行われてる体育館とは逆の方向に。やっぱり迷っているのだろう。
これ幸いと彼女に声かけたのは記憶に新しい。
返事がかえってこないトーク画面を眺めて、愛ちゃんを思い浮かべる。華奢で、顔なんて俺の手のひらくらいしかなくて、髪の毛をぐるぐるして上にまとめててて、でも下ろすと雰囲気がまたちがって、細い肩に細い指、鮮明に覚えている。我ながらキモチワリィ。
笑うと下がる目尻、指の腹を合わせて喜ぶクセ、すねると出てくる下唇。
「はぁ〜〜…」
次はいつ会えるだろうか。