※ツイッターじゃない

「…」

しまった…。
完全に迷った…。

高校生に上がったということで新しく買ってもらったレオタードのなのに、激しい練習でかいた汗がしみてしまっていることだろう。梟谷とネームペンで書かれた来客用のスリッパをペタペタと鳴らしながら歩いていた。

今年のワークショップで体育館を借りることになった梟谷学園(すごい名前)は、東京都内にあるスポーツが有名な私立の高校らしい。さすがスポーツ強豪校だけあって体育館の数が多い。大鏡もあるしバーもある。さらにはちゃめちゃに敷地が広くて、私たちが借りてる体育館からトイレなんてまるで迷路かと思うほどであった。
よかった…練習終わった後で…。これが休憩中とかだったら時間内に戻れなくて死んでるとこだった…。千春先生にしこたま怒られる自分を想像して、ヒィ…と身震いする。

「……」

さて、漏れそうだったからか火事場の底力と気合いでトイレまで辿り着いたはよかったもののスッキリした今、今度は戻り方がわからない。汗が冷えて寒くなってきたし、明日もレッスンがあるんだからさっさとお風呂に入って眠ってしまいたい。体育館から出る前に確認した時計の短い針はすでに9の数字を通過していたし、知らない学校の体育館通路なんていかにもで正直怖い。うすら寒いし不気味でめちゃ怖い。

「…っ!!!」

うう、と身を縮こまらせていると後ろの茂みからガサガサバサバサという音が聞こえて大袈裟なくらい肩をビクつかせる。ちなみにただ鳥が木の枝から羽ばたいただけだった。めちゃ怖い。ちょっと泣きそう。
もっと言えば急いで出てきたので携帯も置いてきている。連絡すら取れない。
なんでこの学校こんな広いんだ!と地団駄を踏もうとした時、ふと視界の恥に明かりが入り込む。まさかと思って小走りで近づくと、まだ明かりのついている体育館があった。
た、助かった〜!案外近かった!ビックリするくらい近かった!
もしかしたら、行きは余計にグルグル回っていただけで本当はすぐそばにあったのかもしれない。安堵からじわりと涙腺が緩む。

小躍りしながら階段を数段あがって、ガラリと体育館特有の重たい扉を開けた。

「すみません!迷ってしま…って…あれ」

「え?」
「へ?」
「えっ」

えぇ…、誰…。
全然知らない男の子たちが居てフリーズしてしまったが、えっと、と坊主の人がどうかしましたか?とにこやかに声をかけてくれた。よくみたらネットがはってあって、みんな見たことあるようなサポーターを付けているのでバレーの選手さんたちだろうか。声をかけてくれた人のおかげで、ハッと我に帰ることができて、慌てて扉の上にかかっているプレートの文字を読む。

[第1体育館]

「た、体育館間違えた…」

みんな不思議そうにわたしのことを見ている。すごく恥ずかしいし迷惑をかけてしまったことの罪悪感で押しつぶされそう。

「あの…?」
「あ、ご、ごめんなさい!間違えました!」
「い、いえ」

慌てて扉をグギギと閉めて、しょんぼりと肩を落とした。この体育館じゃなかった…。どうしよう…朝まで迷ってたら…。あるわけないのに、不安で不安で仕方なくて、やっぱり自分たちがいた体育館はわからない。それでもとりあえず歩いてみようと、トボトボと歩き出す。はあ、とため息を吐いたときだった。

「あの、ちょ、待って!」
「へ、ぅわ!」

後ろから誰かにいきなり腕を引っ張られた。ビックリして口から心臓が飛び出そうだったが、その人はさっき体育館にいた人だった。変な髪型だったから覚えてる。トサカみたい。トサカの人は、いきなりすんません、行っちゃうと思って、と言いながらもわたしの腕を離さない。練習の邪魔をしてしまったことを怒られるのだろうか。

「アー、すんません。そう身構えないで」
「…?」

トサカさんは高い位置にある頭をポリポリかきながら、視線をさまよわせたあと、わたしを安心させようとしてくれてるのかニコリと笑った。

「バレエの子っすか?」
「は、はい」
「バレエって第3体育館っすよね?そっちは第2の方」
「ま、マジですか…」
「マジですマジです」

この学校広いからわかんねっすよね、なんて言ってカラカラと笑った。背、高いなあ。イヅミチャンとどっちが高いだろう。

「じゃ、ボクはこれで」
「あ、はい…!ごめんなさいわざわざ!」
「イエイエ」

トサカさんはわたしの腕をパッと離すと人好きのしそうな笑顔をまた浮かべて、気をつけて〜と右手をふわふわと振った。何その振り方、ちょっと面白い。わたしも真似して振り返す。そして踵を返して、第3体育館へ向かおうとしたそのとき、通路の光がパッと消える。

今度はわたしが、離れかけたトサカさんの腕にぎゅうと飛び込んだ。

「……っは…?」
「ごめんなさいごめんなさいすみませんごめんなさい、暗いの苦手で…!!!!」

怖いやら恥ずかしいやらで顔に熱がジワジワ広がっていくのがわかる。ごめんなさいトサカさん本当にごめんなさい。

「ダイジョブっすよ、えっと…」
「田中愛です…」
「田中さんネ。俺は黒尾鉄朗、何年すか?」
「今年1年生です…」
「お、後輩。俺2年」
「せんぱぁい…」
「はいはいよしよし怖くない怖くない」
「ナウシカ先輩…」
「ブヒャヒャ、ナウシカて」

トサカさんもとい黒尾さんはわたしが少し震えてることに気づいたのか、極力怖がらせないようにわざと呑気な話を振ってくれてるように思えた。やめて…うっかり惚れそう…。

「落ち着いた?」
「はい、すみませんほんと」
「イーヨー」
「くろおさん、あの…」
「なぁに」

男の人とこんなに密着したのなんでバレエ以外では双子の相棒だけだ。めちゃくちゃ恥ずかしい。けど怖いから離れらんない。ごめんなさい黒尾さんゆるして。そしてさらにわがままを言うわたしをもっとゆるして。

「いっしょに来てくれませんか…?」
「えっ、かわい」

迷惑かもしれないけど、本当に怖いのだけは小さな頃から大の苦手で、こればっかりは1人で帰れそうにもない。今度なにか奢りますので、と真剣に黒尾さんの目を見て頼んだけれど、帰って来た言葉は短くそれでいて早口だったのでびっくりした。

「え?」
「いやまいった惚れたわ」
「……え?」

ごめんなさいパードゥン?
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