「っ…んむぁ!?」

ヴィクトルがスルリとスムーズな動作ではづきちゃんの後頭部へ添えている手と反対の手を使って、腰を撫でる。そしてそのままグッと彼自身へ引き寄せた。ビクリとはづきちゃんの肩が震える。さらに言えばキスも唇と唇が触れ合うだけの、小鳥のさえずりのような可愛らしいものじゃない、もっとなんか、おとなのやつだ。しかも海外のやつ。いやらしいやつ。

「うっ、んー!」

はづきちゃんは本当に、本当に驚いている様子で目を見開いてピシリと固まっていた。けれどヴィクトルに腰を引き寄せられると、やっと理解したのかはっとしてヴィクトルの胸板に手をついてなんとか離れようとしているようだった。きっと力が入らないのだろう。当の本人はまったく気にせずずっと気持ちよさそうに穏やかな顔でチュッチュしてる。

「ってうわあああああああ!?ヴィクトォーーーーール!はなれて!!!はなーれーーろー!!!」

僕も正気に戻って慌ててヴィクトルをベリッとはがすと、あーんとかなんとか言ってまたはづきちゃんにひっつこうとする。彼女は離されてから腰が抜けたのかヘナヘナとその場へへたり込んでしまった。顔が真っ赤で目がうるんでいる。かかかかわいそうに。

「ちょ、ヴィクトルどうしちゃったんだよ!」
「ねえ勇利、彼女の名前はなんて言うの?」
「はぁ??」

ヴィクトルは僕から離れていて、いつの間にかまたはづきちゃんの側へ寄る。おとぎ話に出てくる王子様さながらお姫様の前に跪き、ガラス細工を扱うかのようにたいそう繊細かつ優しい手つきで、そっと彼女の左手を手にとった。そしてそのままその美しい瞳に彼女だけを映したのだ。澄み渡りたる、その碧眼に。彼女だけを。
なんかもう映画でも観てるようだ。この世界にヴィクトルとはづきちゃんだけしかいないかのような錯覚すらする。

それほどまでにヴィクトルがはづきちゃんだけに意識を集中させている。



「俺に君の名前を教えて」
「えぇ…??はづき…」
「はづき…可愛らしい響きだ」



「!?」
「あ!!」

こっっいっっつ!!またキスしやがった!うちの看板娘に!!!今度は手でよかったけど!!いやよくないまた抱きつこうとしてるね!!!

羽交い締めにしてこのお色気ガッパにストップをかける。はづきちゃんは手の甲にキスをされてまたビックリして顔を真っ赤にしている。もう泣きそうじゃん!そりゃそうだ!!そりゃそうだぁ!!

「えぇ…あの…んえぇえ…??そのおもしろびっくり外国人さんは誰なん…勇利くん…」
「ああ…あの…今日ロシアからきて…僕のコーチをしてくれるって…」
「あ、スケートの人なんや…」
「Eh!!僕を知らないのかい!?」
「ひぇっ…う、うん。知らないですごめんなさい…」
「ううん!!むしろ燃えるね!」
「「なにが!?!?」」

こわい…こいつこえーよ…。必死感というか、現代若者風に言えばガチ感というか…とにかく鬼気迫るものを感じて恐怖すら覚える。何が一体あなたをそうさせているのだ。はづきちゃんも肩抱いて震えちゃってんじゃん…。

ヴィクトルは彼女にそれはそれは優しく微笑むと、もういきなり飛びかかったりしないよ、大丈夫。と、僕の腕をポンポンと叩いた。本当だろうな?という気持ちを込めて疑いの目を向けつつ離すと、いやーごめんごめんついうっかりと立ち上がった。ついうっかりであんなことされたらたまったもんじゃない。はづきちゃんの顔が絶望に染まっている。

「ところで俺の荷物が見当たらないんだけど?オー、これははづきの小さい頃の写真かな?とってもキュートだねえ」
「荷物…?」
「…っあ、いやヴィクトルの部屋はこっちじゃなくて隣の…」
「隣…?」
「ヤッタ!はづきの部屋の隣かぁ!むしろここの仕切り取っ払っちゃおうよ!ね!いいでしょ!?」
「ダメだよ!あととっさに写真懐に仕舞わない!元に戻しなさい!」
「隣…?」
「ん?隣、と、となり?」
「となりぃ…?」

勇利くん、わたしはこの人とお隣さんになるの…?はづきちゃんは青いやら赤いやら忙しない表情で僕の服をきゅっと握る。ヴィクトルはエーと心底残念そうに写真を元に戻している。隣。となり。TONARI。

あ、それはダメだ。

「ちょっと母さんと父さんにヴィクトルの部屋移してもらう」
「おねがいします」
「エエ!?なんで!!俺ここがいいー!」

やぁあだぁあ!はづきー!!と駄々をこねる27歳の首根っこを掴んだ。

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