※演出上、絵文字を使わせていただいております。
なんか今日は冷えとるなーと思ったら大寒波が来て大雪が降ったらしい。すごい。一面銀世界やった。
今日は大学へ用事があったのでゆ〜とぴあは一日お休み。ひさびさに大学の友達に会えてすごく楽しかったけどゼミはひたすらに眠かった。
「あっ、ミナコさ、え!?はっや!行ってもうた」
夜方に帰るとミナコさんが光の速さでわたしの横を通り過ぎ玄関へ駆けて行く。何か入り用なのだろうか。走り方がバレエダンサー特有の…、そういう、所謂身体が柔らかい人ならではのしなやかすぎる走り方でちょっと笑ってしまった。わたしは裏の勝手口から中へ入る。勝手口は厨房へ続いていて、中にはおじさんが居た。
「ああはづきちゃん、おかえり」
「ただいま!ミナコさんえらい勢いで走っとったけど、なんやあったん?」
「あ〜、多分かっこよか外国人の兄ちゃんとやね」
「かっこよか外国人の兄ちゃん」
「そそ。あ、手洗いうがい忘れたらいけんよ」
「はあい」
今朝クローゼットの奥から引っ張り出したマフラーを解きながら小脇に挟んで手を洗ってうがいをする。急に冷えたしイソジンすべきか悩みながら厨房を出ると広間の方から賑やかな声が聞こえる。なんやろ。
「あらっ、はづきちゃんおかえり。今日は寒かったとやろ?」
「うん寒かったぁ〜、何かご飯ある?」
「ええ!?ごめんねえ、おばさんどっかで食べてくるかと思って作っとらんのよ」
「あっ、ごめん連絡いれとらんだね!今日は食べてこやんだんよ。せやったら自分で何か作る、ごめん〜」
「今からカツ丼作るけどだべんね」
「美味しそうやけど、また今度にする!ありがとお〜」
おばさんはそお〜?と言いながら厨房へ入って行った。今日は疲れたし後からサラダかなんか作って済ませよう…。このずしりと重たいリュックを早くおろしたい一心で部屋へと一目散に向かって歩く。おもったより疲れていたらしい。脚もパンッパンや〜…。
ふと、自分の部屋の前まで来て隣の部屋が目に入った。なんやろ。なんか違和感。
「…ま、ええか」
ピチッとしたタートルネックのセーターを脱いでダボっとしたGAPのパーカーを着る。これが一番楽だと思う割と本気で。柔らかいビーズクッションに体を埋めると疲れがどっと押し寄せてきてうとうとしてしまう。このまま一眠り…そう思ってしまえばすぐに夢の世界へとわたしの意識はおちてしまった。
ブーとなるスマートフォンの音で意識が浮上する。まだ重たいまぶたをこすりながら時間を確認するとそこそこいい時間になっていた。携帯を取り出して画面を見る。
○<ねえちょっと!はづきん家って長谷津にあるよね!?
○<ねえ!!!
○<返事してよ〜!💦💦
「え、なんやめっちゃ来とるやん」
マナーモードにしていたので気づかなかったがさっきまで一緒にいた友達からたくさんメッセージが届いていたようだ。尋常じゃない通知にどうしたのか慌てて返信をするといきなり切り替わる携帯の画面。着信である。
「ぅわわ、なになに」
『ちょっとぉ!遅いわよ!あんたん家長谷津でしょ!?』
「う、うん。せやで」
『近くに温泉施設とかないわけ!?』
「へ?」
『だぁ--ら!温〜--設!!」』
長谷津の唯一の観光資源であった温泉だが、進む過疎化によって、今残っている温泉施設はここゆ〜とぴあかつきしかない。
友達がまだ外にいるからなのか、ここの部屋の電波が悪いのか、はたまた友達が興奮しすぎて音割れしているのかわからないが、いきなりブチブチと途切れてあまりよく聞こえなくなってしまった。
「-----!」
「---」
「-----」
ってあれ?なんか携帯よりこの部屋の外からなんか聞こえるような…。そろりそろりと四つん這いになってふすまへ近づく。
「んん…??」
『ーっと!--てんの!?』
「あ、まって泉ちゃんちょっと…」
『はぁ?だか〜-ートル--フォーロ〜!!』
「ちょ、ぜんぜんきこえやん、なんやって?」
廊下に出れば電波もよくなるだろうか。とりあえず寒いけど開いてしまおうと襖に手をかける。すると廊下の奥で人間2人分と、なんか小ちゃい何かの影が蠢いているのが見えた。やっぱり誰かおる。
『ヴー--ニキ-ー-!』
「まってねえ〜」
「あっ、まってヴィクトルそっちじゃ」
「え〜?」
おばさんかおじさんだろうと、さして気にもとめず襖をスパリと開いた。開きながら向こう側からも襖を開く力が加えられてたのかとても勢いよく開いた。四つん這いになっていたので目の前に逞しい人の脛から下が見える。男性の脚だ。素足。誰だろう。
「オウ?」
「えっ、はづきちゃん!?」
ゆっくりと視線を上にあげていくと、月明かりに照らされて星屑のような輝く銀髪がサラリとなびき、水面ように神秘的にキラキラと輝く瞳がわたしをみおろしていた。
「えっ、誰」
また素直に思ったことがポロッと口に出る。そしてとりあえずびっくりして勢いよく立ち上がる。え?なん、だれ、え??なに?デッカ。背ばり高いやん。え???外国人さん越しに顔面を真っ青にしている勇利くんが見える。え??どゆこと??
混乱していると大きな彼がのそりと動いた。
「やっと会えたね」
「…へ、…んぅ!?」
彼の甘い声音がわたしの右の鼓膜を優しく嬲った。
あれ。
キスしとるやんこれ。
『はづき!だからぁ!ヴィクトルニキフォロフだって!』