はづきちゃーん、勇利帰ってくるとよ〜なんて、おばさんが言っていたのが3日前。ミナコさんがはづき!!勇利迎えに行くわよ!!と言って急に現れてわたしの腕を引っ掴んで連れ出したのが30分くらい前。

「…いやめちゃめちゃ急やね!」
「なぁにあんたまたスケート観てなかったの?」
「う〜ん…」
「従兄の活躍くらい観ときなさいよね」
「やって…課題とかもろもろキツかって」

しかもこんなすぐ帰ってくると思わんかったし…。あと1ヶ月くらい後かな?とか思ってのんびりもするやん…。右手の人差し指と左手の人差し指の腹同士をくっつけてグリグリと力を入れたり抜いたりする。口は無意識の内にとんがってきているだろう。わたしは分が悪くなるといつもそうだった。言動に気持ちがモロ直結しているし、顔に出すぎて隠し事なんて生まれてこのかた出来た試しがない。きっとミナコさんもわたしが本心から忙しくて観てないと言っている事を理解してくれたのだろう。バックミラー越しに感じていた視線が無くなった。

車が交差点を左に曲がるとあと少しで駅に着く所まで来たのがわかる。今更やけどなんでわたしまで連れてこられたんやろ。素早く流れて行くもう見慣れた景色の中に団子と書かれた看板を見つける。うまそう。あんなとこにお団子屋さんあったっけ。

「しっかしまあ、はづきの方言もなかなか抜けないもんね」
「せやねえ、ずっとど田舎住んどったし」
「ど田舎って、ここもそこそこ田舎だけど」
「いやいや、わたしんとこはもう過疎りまくっとる田んぼと山しかないようなとこやで!」
「あれ、そーだっけ」
「これで4回目」
「マジ?」

歳かしら…ミナコさんは険しい顔をしている。

わたしは5年前、勇利くんが海外へ行くちょっと前にこの長谷津町に越してきた。どれくらいちょっと前かすらあんまり記憶にないし、わたし自身の荷物の片付けにも追われていたし、向こうも向こうで忙しそうにしていたし、本当にすぐサヨナラしてしまったことも相まって彼の容姿を思い出せない。けれど、ポスターはとってもよく見かける、話もよく聞くので人物像もだいたいわかる。

勇利くんと言えばスケート選手。従兄と言えど、彼は有名人。一応年末には親戚一同この長谷津に集まるようにはなっているけれど、わたしは異性である勇利くんより真利姉ちゃんと居たし、彼はすぐ練習がどうとか言ってお家にいなかった記憶がある。イメージ的にはなんだか遠い雲の上にいるような人だ。

「じゃ、私車停めてくるから。はづき先行って待っといて。そろそろくると思うよ」
「わかった」

さっすがミナコさんハンドルさばきも軽やかや。

じゃ。と言い残して颯爽と車が遠ざかる。くるりと駅を振り返り、意気揚々と歩みを進めた。実はちょっと楽しみ。同年代の子は少ないし、仲良くなれたらええなぁ。

しばらく歩くと改札が見える。大学はこっちの大学に入ったのでこの駅はほぼ毎日利用している。慣れたもんだ。あ、ここにも勇利くんのポスターいっぱいや。

コートの中のセーターを伸ばして手のひらを擦り合わせる。手はあったかいけど鼻が冷えている。ハックショイ!とくしゃみをしてから手のひらを鼻に押し当てた。そういえばもう直ぐ春やのに全然あったまらんなぁ。改札前でのんきにショートブーツの踵を背伸びしたりしなかったりでコツコツ鳴らして遊ぶ。

「っはぁ"ぁ"!」

うわビックリしたなんだなんだ。ふわふわしていてた意識を、誰かの変な声で引き戻された。よく見れば、エスカレターのポスターの前で固まってる青年がいる。

あれぇ…?

青年はがっくり肩を落としたかと思うと、とぼとぼと影を背負い込みながら改札をくぐり、そのままわたしの前を通り過ぎて歩き出そうとしてしまう。

ああああ…!行っちゃう!

「っぅあ待って!」
「エ!?」

勝手に動いた体がが彼の腕を掴んだ。

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