勘→くくっぽい。

に留める



六年生になった彼らに嫌でも訪れる、別れ。それが目前に控えた、とある日のこと。お使いに出ていた三郎と勘右衛門は同時に足を止め、空を見上げた。

「…雪だ」

ぽつり、と呟いたのは勘右衛門だった。冬独特の空気に思わず息を吐けば、白。そして帰り道中、二人して無言だったことを思い出した。雪が降る、冬が終わればもうあそこは帰る場所ではなくなる。

「勘右衛門」

不意に三郎が彼を呼んだ。

「何」
「就職先、兵助と同じとこにしたんだって?」
「うん、そーだよ」

にこり、と勘右衛門は笑う。彼は意図的に兵助と同じ場所に就職した。わざと、そうしたということに誰もが気付いている。勘右衛門もそれを隠そうとはしなかった。

「何故だ」
「何でだと思う?」
「そうまでして一緒にいたいのか」

忍びになるというのに、お前は情を取るのか。三郎はきっとそう言いたいのだろう。勘右衛門は笑みを崩さない。

「半分は、そういうこと」

では、もう半分は?
勘右衛門は目を細めた。


「兵助に殺して貰うため」


ぞわりと、冷たいものが肌を刺す。その言葉の意味はすぐに理解できた。それを分かっていながら更に勘右衛門は口を開いた。

「忍びになれば、いつどこで死ぬか分からない。俺は、兵助のいないところで兵助に知られずに死にたくないし、誰とも分からない奴に殺されたくはない。だから、兵助の傍にいて、俺が死ぬ時は兵助に殺して貰うんだよ」

そう吐き出して、一層笑みを深くした。その考えは分からなくもないと鉢屋は思ったが、理解したくは無かった。忍びを目指すものにとっては、ただの情でしかない。なにせ、もし、

「もし、兵助が先に死んだら?」
「俺以外に兵助は殺させない」

兵助は俺が殺すから。ああ、そうかいそれならいいか。

「お前のその気持ちを知った上で、兵助はお前に就職先を教えたのか?」
「うん、そう。そしたら、兵助の奴なんて言ったと思う?あいつ、」
「"俺が勘右衛門を殺すまで勘右衛門が死ぬことは許されない"…か?」

先を読んだ彼の言葉に少し驚いて見せたのは勘右衛門で、今度は三郎がどこか皮肉げに笑った。

「似た者同士だな、お前たちは」
「…」
「お前に、兵助が殺せるか、勘右衛門」
「…殺せると、思う?」
「思わん、が、兵助とて同じだろうさ。つまりお前らは互いに生かし合う」

呆れるね、と言って今度は優しく笑うのだ。そして小さく、羨ましいよと呟いた。勘右衛門は困ったように肩を竦める。


「…いっそ、二人で豆腐屋にでもなれば良かったかねえ」
「ああ、確実に」

くすり、と冗談めかして二人で笑って、寒い寒いと両手を擦り合わせながら学園へと再び足を進めた。