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「何やってんの、お前ら」

呆れたようにそう言ったのは三郎である。委員会に勘右衛門が顔を出さないからと部屋に呼びに来てみれば、予習をしているのであろう机に向かう兵助にべったりと引っ付いた彼の姿を見た。

「お前ら、とは失礼な。俺はただ予習しているだけだ」
「そりゃ失敬。何やってんの、勘右衛門」

大げさに肩を竦めて見せる三郎。無理やりに引きはがさない時点で「お前ら」だと思うわけだが、そう言っても無駄なことは分かっているため何も言わない。当の勘右衛門は兵助の背中から顔を上げ、目線を三郎に寄越した。

「充電」
「はあ?」
「今夜から長期任務だから」

だから、へーすけを充電してんの。
勘右衛門はそう言って再び兵助の背に顔を埋めた。彼は普段から兵助と行動を共にする。それは必要だからだと彼自身は言った。忍びが、何かに依存するなどと馬鹿げている。

「委員会を休んでいい理由にはならんぞ、勘右衛門」
「鉢屋のケチ」
「誰がケチだ」
「勘ちゃん、」

不意に兵助が口を挟んだ。勘右衛門を顧みてその頭を撫でる。

「行っておいで」
「……、うん」

兵助の表情を見て、へらりと笑い勘右衛門は立ち上がった。

「すぐ戻ってくるから待ってて」
「ああ」

兵助が頷いたのを確認してから三郎に「行こうか」と告げる。煮え切らない思いの三郎だったが、勘右衛門が行く気になってくれたのはありがたい。先に廊下を歩いて行く勘右衛門の後を追った。


「お前は兵助に依存しすぎだ」

途中、三郎がそう口にすると、勘右衛門は小さく笑った。

「知ってる」
「自覚がある分質が悪いな」
「でもいつかは離れるんだ」
「……」
「兵助に迷惑はかけないよ」
「…迷惑、ね」

意味有りげに三郎がそう呟いたのは聞こえたが、別段気にしなかった。そうしている間に委員会室へとたどり着き、先に待っていた後輩たちと挨拶を交わす。
三郎は思うのだ。勘右衛門のそれを迷惑だなどと、なぜ彼が思おうか。なにせ、

「鉢屋先輩、どうしました」

入り口に立ったままの三郎に不思議そうな顔で庄左ヱ門が尋ねる。すると三郎はにやり、と笑って勘右衛門を呼んだ。

「お前より兵助の方が脆いぞ」
「……うん、知ってる」

二人して笑みを浮かべる先輩に、一年の彼らはただ首を傾げるだけだった。



委員会を勘右衛門が終えた頃、既に夕刻であった。直に学園を発たなければいけない。それでも勘右衛門は食事よりもまず彼を選んだ。

「兵助」

部屋に戻ったが兵助の姿は無かった。おそらく委員会だろう。なにせ彼は今日委員会当番だった。それをわざわざ行かずにいた理由など一つしかないだろうに。きっと学級委員長委員会が終わるのを待っていたはずだ。けれど思いのほか勘右衛門らの委員会が長引いた。このままでは今日中に火薬委員の仕事を終わらせられない、と先ほど倉庫に向かったに違いない。それでは、勘右衛門が任務に発つ時間に間に合わない可能性もあっただろうが。真面目な兵助のことだ、委員会の仕事を放りだすことはできなかった。

適度な準備をして、食堂で弁当を受け取り外出届を出して勘右衛門は学園の門へと向かう。結局兵助には会えず仕舞いだったけど、と思いきや。門前に立つ彼の姿を目にした。

「…入れ違いになったら困るからな、待ってた」
「委員会は?」
「終わらせた」

終わらせた、か。少し頬が緩んだ。

「勘右衛門」
「なに?」
「今度は早く帰ってこい」
「ああ、そうするよ」

だって、兵助には

「俺には勘右衛門が必要だ」

ね、ほら。鉢屋、お前の読みは当たってる。俺が兵助に纏わりつくことを、兵助は迷惑とは思わない。逆なんだよ。

「知ってる」

俺が居ない方が、兵助は不安なんだ。

「兵助も、委員会の仕事終わらせて待っててよ」
「…そうする」

いつから待っていたのだろうか、冷えたその身体を抱き寄せた。

「行ってきます」
「うん」

一つだけ間違ってたよ、鉢屋。失う辛さを知らない俺は、俺たちは、どちらも同じくらいに脆くて弱い。