色は三禁


実習を終えて学園に戻ってきた時、時刻は真夜中。自主練をしている上級生を除いて、学園内は静まり返っていた。今日の実習は二人一組で行われて、ペアは籤で決められたが私は兵助とだったから良かった。私と兵助は決して息が合うとかはないが互いに足を引っ張ることなく、無事1日で実習を終えられた。恐らく一番乗りだろう。竹谷あたりは3日くらいかかるんじゃないだろうか。

「どうする三郎、このまま風呂行くか?」
「ん、ああ、そうだな」

早く泥を洗い流してあったかい布団で眠ろう。ああでも湯船に浸かりたいと私が言えば、兵助は少し考えた後で「じゃあ焚こうか」と笑った。湯を焚いている間軽く食事を取る。疲れて会話という会話もせず、その後風呂場に向かった。

どうせ誰もいないんだからと適当に服を脱ぎ捨てて中に入る。変装したまま風呂に入るのは気が引けたが誰かと一緒の場合仕方がない。体中の泥を洗い流し(兵助は執拗に長い髪を丁寧に洗っていた)、良い具合に温まった湯船に身を沈めた。首までたっぷり湯につける。ほう、と思わず吐息が漏れた。汗を流した後の風呂は最高に気持ちが良い。兵助を見れば頭の上から足の先までそれはもう丁寧に洗っている。コイツ潔癖症だったっけな、と一瞬思ったがただ単に几帳面なだけだろう。そんな兵助の様子を湯船から眺める。
白い肌に映える黒髪は腰まであり、本当に筋肉がついているのかと疑いたくなる細い体躯。しなやかに伸びる腕。素直に綺麗だと思う。ごくりと喉が鳴った。男の裸体に欲情できるのだから、俺も相当頭が可笑しいのだろう。いや、誰でもいいわけじゃない。これはきっと兵助だからんだ。うんうん、と一人頷けば湯で身体を洗い流した兵助が湯船に足先を浸ける。

「どうした三郎」
「や、別に」

なんでもありませーん、と顔半分を湯船に沈める。息を吐き出せばぶくぶくと泡が水面に上がった。首元にへばりついた髪を手にとって頭の上にまとめ上げるその仕草でさえ色っぽく感じる。

「へーすけー」
「なんだよ」
「熱い」
「のぼせたのか?先に出る?」
「ん、違くて」

くい、と兵助の腕を取って後ろから抱きしめてみる。

「は…!?」
「良い匂い」
「わ、ちょ、離せ三郎!」
「やーだね」

温かい湯船の中でもしっかりと体温を感じるから不思議なものだ。慌てて離れようとする兵助とがっしりと抱きとめる。ちょっとした悪戯心で肌をやらしく撫でてみたり。

「ッ、ばかっ、三郎…!」
「なに?感じちゃった?」
「ちが、ッう…!あ、」
「嘘吐きー」
「ッ!!そ、ういうお前こそ…尻になんか当たるけど?」
「俺はとっくに感じちゃってますう」
「うぜー…ッ」

ちょっとした悪戯のつもりだったけど、兵助がやらしい声出すからその気になってしまった。これは責任を取って貰わねばなるまいな。思わず笑みを零したら思いっきり顔面にお湯をかけられた。