君と休息


学園長のお使いを受け二人で外へ出ていた。その帰り道、突然の雨に見舞われる。多少の雨なら走り抜けるが、意外と雨量が多い。仕方なく偶然見つけた小屋の中へと一旦避難することにした。

「あー、冷てえ」

ふるふると頭を振るって、濡れた量の多い髪を取り外せば「便利でいいな」と兵助が苦笑を漏らす。
小屋の中から空を見上げれば真っ黒の雲が一面を覆っていた。これは暫く止みそうにない。

「まあ、お使いは終えたし後は帰るだけだからそう急ぐこともないだろう」

兵助はそう言って小屋の中に座った。恐らく山小屋だろう。今は使われていないようだが薪が置いてあったのは幸いだった。

「服乾かすか」
「そうだな」

兵助が上着を脱いで窓から外へと濡れた服を絞る。本当に上から下までびしょ濡れで気持ち悪い。いっそ全裸になってやろうかと思ったがさすがに止めておいた。ここは学園じゃないんだ、いつ何が起こるか分からないしな(それにきっと兵助が冷やかな目をするだろうから)(それはそれで見てみたいが)

小屋の中心の炉に薪を入れて火を付ける。そこで上着と肩衣を乾かした。炉の傍で二人して向い合せになって腰掛け雨が止むのを待つ。

二人とも何も話さず雨音だけが響いていたが、ふと兵助が自身の腕を擦ったのが目に入った。髪を下ろしているが、そういえば髪も酷く濡れているはずだ。余計に身体が冷えるだろう。

「兵助、もっと火に寄れ」
「え?」
「風邪を引くぞ」
「平気だ」

兵助はそう言うと膝を抱えた。どうしてこう無駄なところで意地を張るのだろう。素直に火に寄ればいいものを。冬生まれの癖に兵助は寒がりだ。

「兵助、寒くないのか」
「平気だって」
「私は寒い」
「うん。…うん?」

立ち上がって兵助の隣へと移動する。不思議そうに私を見る兵助の横に腰を下ろすと、くいっと兵助の肩を抱き寄せた。

「なっ」
「こうすれば温まるだろう」

素肌と素肌が重なれば意外にも温かい。腕に当たる兵助の髪がじわりと冷たかった。

「いいって三郎」
「私が温まりたいんだ」
「…」
「もしかして兵助、」

ふいと顔を逸らした兵助に一つの予感が過った。

「緊張してたのか?」
「…まさか」

そう言いながら私から顔を背けてつつ頬杖を付く兵助の頬が微妙に赤い。ああ、もう。可愛くて仕方ないなこいつは。

「うわっ、三郎!?」

ぐいっと兵助を引き寄せ後ろから抱きしめるように身体を包み込んだ。しばらくわたわたと抵抗するわけでもなくただたじろいでいた兵助だったが、次第に大人しくなり私の腕の中に納まった。

「こうした方が温かいだろう?」
「…うん、まあ」
「不満か」
「いや、別に」

頭を振り、兵助はとん、と頭を私の胸に預けるように力を抜いた。ああ本当に可愛いどうしてくれよう。

「立つもの立ったらどうしてくれる」
「ぶっ飛ばすぞ」
「はいはい、学園戻るまで我慢しますよー」
「…は?」
「てことで学園戻ったら一緒に温まろうな」
「断る」

満更じゃ無いくせに、とついつい頬が緩む。こんな至福の時間をくれたんだ、少しは大雨に感謝しようか。