才と秀才


「…級長が聞いて呆れるな」

兵助は隣に座る男に向かって吐き出した。午後一番の授業、二人は屋上にいた。所謂さぼりというやつだ。鉢屋は紫煙を吐き出しながら先ほどの兵助を真似るように言葉を紡ぐ。

「優等生が聞いて呆れるな」
「…俺はさぼってるだけだ。お前はサボり+煙草」
「級長なんざ大概悪だ」
「勘ちゃんは悪じゃない」
「へえへえ」
「ッ、こっちに煙吐くな臭い」

なんでサボったかの経緯は忘れた。偶然昼休みに屋上で出会って、のんびりしている内に授業が始まったのだ。鉢屋が授業に出ないのはいつものことだが、兵助は至って真面目な生徒である。きっと先生や友人たちが不思議がってるだろう。

鉢屋は短くなった煙草を携帯灰皿に捩じ込み、新しいのを取り出して火を付けた。


「おい鉢屋、何本目だ」
「さあ」
「体に悪い」
「知ってるさ」
「早死にするぞ」
「構わねえよ。俺が死んでも誰にも影響せんだろう」
「ふざけんな」

鉢屋の言い種が頭にきて、兵助はパッと鉢屋の口から煙草を奪った。そして何を思ったのかパクりとそれをくわえる。

「おい、久々知、」
「ッは、けほっ、…うへえ…」
「…大丈夫か」
「不味い。よくこんなもの何本も吸えるな、不味くないのか」
「不味いに決まってる」
「だったら何で吸うんだよ」
「不味いから吸うのさ」

そう言って鉢屋は兵助から煙草を奪い返して自らの口へと戻す。空に向かって紫煙を吐き出し、

「…あ、」
「なんだよ」
「間接ちゅー」
「…小学生か」

兵助が呆れたように溜め息を吐く。鉢屋は変わらず笑っていた。


「鉢屋」
「んー?」
「お前が死んだら、確実に一人は悲しむよ」
「へえ、誰が?」
「雷蔵」
「お前じゃねえのかよ!」
「なんで俺が」
「俺の期待を返せ!」
「期待したのか」
「したわ!すっげえした!」
「そりゃ残念だったな」
「兵助つれない!」

わっ、と泣き真似してみせる鉢屋にまったくリアクションも取らず再び溜め息を吐き出す兵助。

「鉢屋が早死にしようとどうでもいいけど、俺は早死にしたくない」
「うん?」
「だから俺の前では吸うな」
「口が寂しいんだよ」
「知るか」
「あ」
「…あ?」

鉢屋が何か思いついたように、まだ先の長い煙草を地面に押し付けた。それを見ていた兵助が視線を鉢屋に戻したら、

ちゅ、と唇が触れた。

「………は?」
「つまり、こういうことだな」
「……」
「兵助が俺の口寂しさを防いでくれると」
「……」
「優しいねえ、兵助」
「鉢屋」
「はいはい」
「殴っていいか?」
「駄目です」

既ににグーを構えている兵助の腕を取って、もう一度口付ける。今度は先程よりも深く、深く。


「煙草より癖になるわ」
「……不味いんだよ、馬鹿」






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未成年者の喫煙ダメ絶対。