兵助は仰向けになり、空を見上げた。木々の隙間から除く空はとても眩しく思える。しかし次の瞬間、目の前の空が消えた。その代わりに不破雷蔵の顔、もとい三郎が自分を覗き込んだ。
「派手にやられたねえ兵助?」
にやり、と意地悪く三郎は笑う。誰のせいだ、と罵倒してやりたい気持ちでいっぱいだったがそんな余裕は無かった。腕で目を多い三郎の顔を見ないようにした。
「お前なら勝てる相手だったと思うが」
「…煩い、あっちへ行け。どうせ俺たちは不合格だ」
「……」
けれど三郎は動く気配を見せない。
「何故、兵助は私に構う」
不意にぽつりと呟いた。
「皆は私の奔放さにもう慣れたし諦めた、それなのに何故お前は毎回私に付きまとう。そういうところが、鬱陶しい」
「…俺だってお前が鬱陶しい」
ムッとして二人で睨みあう。そうだ、鬱陶しい、鬱陶しいのに。
「気にしてしまうんだ、仕方ないだろ」
兵助はそう呟いて視線を逸らす。鬱陶しければ放っておけばいいのは分かってる。それでも放っておけないから困ってるんだ。きっと勘ちゃんたちにまで迷惑がかかるからだ。そう思ったが、三郎の言う通り勘右衛門本人らから三郎の行為を迷惑だなど聞いたことはない。それならば何故自分は、
不意に三郎がから溜息が聞こえた。溜息を吐きたいのはこちらだ、と兵助は三郎を見上げる。
「もうなんだっていいさ。兵助、さっさとゴールへ向かうぞ」
「…非常に申し訳ないけど、俺が手拭を奪われたから俺達は失格だ。お前分かって言ってんだろ…うわっ」
兵助が不機嫌そうにそう言えば、彼の上に何かが降ってきた。手にとって見ればそれは手拭で、先ほど二人に取られたものだった。
「…なんで、」
「奪い返してはならないというルールはないはずだが?」
にやりと笑う三郎の手には、もう一組の手拭。
「それ、あいつらから…?」
茫然と呟く兵助に対し、三郎はさっさと歩きだす。慌てて兵助も立ちあがった。
「今回もお前はやる気ないのかと思ってたのに」
「私はいつだってやる気はあるさ」
「…へえ」
「ただ今回は乗り気じゃなかったのは確かだ」
「じゃあ、どうして」
「……」
三郎が少し黙り、再び口を開いた。
「兵助が、」
「…え?」
お前があいつらに言ってくれたことが嬉しかっただなどと。
「俺が何?」
「いや、なんでもない」
「はあ?」
死んでも言ってやるものか。
「相変わらず三郎は変な奴だな」
「当然だろう」
三郎が頷いた。
「私は兵助みたいに真面目に生きるだけでは物足りないのさ。面白可笑しく生きて何が悪い」
お前には分からないだろうが、と内心呟いた。しかし兵助は、そうだなと肯定的に呟く。
「そういう考え方もあるんだなあ」
「……」
「なんだよ」
「…いや、意外というか」
「は?」
「そういう、兵助の素直なとこは嫌いじゃない」
「…そ、そりゃ……どうも」
意外だったのはお互いさまで。それから二人は言葉を交わすことなく目的地へと先を急いだ。