「兵助、好きだ」 床に寝転がり、俺の髪を指先で弄りながら三郎は言った。もう何回何十回と聞かされた台詞。 「俺は、嘘吐きは嫌いだ」 言えば背中越しに三郎が笑った、気がした。いつものように繰り返される問答。三郎はいつだって俺の言葉を弁解しようとはしない。つまりは、そういうことなのだろう。何故三郎はそんな「嘘」を俺に吐くのか。この「嘘」にどんな意味があるのか。 「好きさ、兵助」 「嘘吐き」 弁解はしない、でも肯定もしない。三郎はいつだって笑うだけだった。兵助が好きだと。そんなに何回も何回も口にされる「好き」だなんて、 「軽いんだよ」 「兵助、」 「嫌いだ、お前なんか」 その口で嘘を紡ぐお前の言葉なんか、聞きたくない。そっと両手で耳を塞いだ。 しん、と何も聞こえなくなったのは一瞬のことで、次の瞬間頭に響いたのは奴の声で。好きだ、といつもの調子で口ずさむ。聞きたくなんかないのに。 「だったら兵助は、どうしてそんなに頑なに三郎を拒むの?」 不意に雷蔵に問いかけられた。ここは図書室で、今は自分たち二人しかここにはいない。この場での私語を気にする図書室の番人もどうやら実習に出ているらしい。 「兵助は三郎が嫌いなの?」 「……違うよ、知ってるだろ」 「うん?」 「俺は三郎が嫌いなんじゃない、三郎の言葉が、嫌いなんだ」 嘘なのか本当なのか。それに気付いて欲しいのか欲しくないのか。核心に触れていいのか駄目なのか。何一つ、全て誤魔化してしまう。 「俺はそんな弱虫が嫌いなんだよ、三郎」 言えば目の前の雷蔵、いや、雷蔵のフリをした三郎は頬杖を付いたまま目を細めた。 「お前はいつだって俺の目を見ない。いつも逃げてばっかりだ。そんなお前の言葉なんか、聞きたくない、信じられない」 三郎は一体、何を伝えたいんだ。 今度は俺が問う。そしたら三郎は俯き、はは、と枯れた声で笑った。そして顔を上げ、真っ直ぐに俺を見る。その顔は笑ってなどいなくて、どこか不満そうな、いや、何かに耐えているような表情で。 「そうだな、私はただの弱虫だ。好いた相手には照れ臭くて、顔を見てその好意を伝えきれない。茶化さずにはいられない弱虫さ」 そう言い切ると、いきなり机にバタリと倒れこんだ。 「あー!恥ずかしい!兵助の馬鹿やろう!好きだ!ちくしょう!」 だなんて、馬鹿はどっちだ。 再び顔を上げようとした三郎の頭を鷲掴んでそれを阻止した。 「…あの、兵助?」 「うるさい」 こんな顔、見せてやるものか。俺が思っていた「弱虫」の意味とはかけ離れていた彼の告白。恥ずかしいのは、俺の方だ、馬鹿。 一つだけ訂正してやるよ、三郎は嘘吐きじゃなかった。ただの、照れ屋だ。そんな三郎が、俺は嫌いじゃないと思った。俺が知りたかったのは、彼自信の言葉だったから。 了. ---------------------- しゅうさんリクエストになります! リクエスト内容を自分的に解釈しすぎてしまいましたが、二人のすれ違った想いが書きたくて。 兵助は三郎が好きだって言うのが自分をからかってるんだと思ってて、からかうのは何かを伝えたいからでそれを偽ってると思ってたら、ただ本当に兵助が好きで照れ臭かっただけっていう。そんな二人です。 リクエストありがとうございました!しゅうさんのみお持ち帰りOKです! |