授業が終わり、本日は勘右衛門が外出していて委員会も無いため三郎は暇を持て余し兵助の部屋へと訪れた。自室にいるという確証はなかったのだが、もし居なかったとしても勝手に居座ってやろうとはた迷惑な思考を持ちながら訪れた彼の部屋には、確かに本人がいた。居たのだが、 「…女装?」 女性物の着物に身を包んで鏡に向き合っている兵助。襖を開けたことにより兵助が三郎を向いた。 「どうした、三郎」 「なんで女装してんの?」 「明日実習で女装するから。久しぶりの女装だし予習しとこうかと思って」 「町に行くのか?」 「ああ、ペアになって夫婦役」 「…夫婦?」 怪訝に呟いて、三郎は後ろ手に襖を閉めた。 「兵助は誰とペアになったんだ」 「勘右衛門」 「で、兵助が女役をするわけか」 「そういうこと」 「ふうん」 化粧を始めようと再び鏡に向き直った兵助に対し、三郎は目を細め何かを考えた後兵助の隣に腰を下ろした。 「なあ兵助、私に化粧させてくれないか」 「は?」 「いいだろう?」 「いいわけあるか、それじゃ予習にならない」 「お前なら問題なく出来るさ」 言いながら兵助の手から化粧道具を奪う三郎。彼が言い出したら止めないことを知っているから抵抗はしないが、釈然としないのは事実だ。 「さ、兵助。こちらを向け」 「お前なあ…」 ぶつぶつと文句を零す兵助。だがなんだかんだ言いつつも自分に向かう兵助に満足したように三郎は笑みを見せる。兵助は諦めたように溜め息を吐き出した。三郎はさてと化粧道具を手に取る まずは、とおしろいを手に取った。兵助の肌は元から色白なのだが、その上にそれを塗り重ねる。更に引眉を施し眉墨を書き、肌に頬紅を重乗せる。手慣れた動作で進められる作業に兵助もただ黙って終わるのを待った。兵助は元々整った顔立ちで、その伏せられた長い睫毛がこれまた目を引くのだ。 「…」 おっと、誘惑されてる場合じゃない。三郎は止めかけた手を再び動かした。最後に、と紅を取ろうと化粧箱を探る。すると目に留まったは真っ赤な口紅。それは以前三郎が兵助に、と贈ったものだった。当時はいらないと言っていた兵助だったが持っていてくれたのか、と自然と口角が上がった。 今思えばこの真っ赤な色は兵助にもキツすぎる印象を与える気がするが。兵助が自分の送った物を取っていてくれたことが何より嬉しかった。それを薬指に拾い上げ、兵助の唇にゆっくりと乗せていく。彼の真っ黒な髪と、白い肌にその紅はよく映えた。 塗りあげ、真っ直ぐに兵助を見詰めた瞬間。心の奥から突き上げる何かがあった。これは自負じゃない、彼自身の魅力だ。こんなにも、 「ッ」 嗚呼、こんなことしてやらねば良かった。すっと頬に手を当てて、軽く唇を押し当てる。途端、兵助の目がバッと開き咄嗟に三郎の肩を押した。しかし三郎も負けじと兵助の後頭部を押さえつけて強く唇を吸い上げる。兵助から鼻に抜けるような声が漏れた。止められそうにない。逃げる舌を絡め取り、上顎を舐めればびくりと肩を弾ませた。 ゆっくりと上半身に体重をかけ、床に押し倒す。着物の帯をするりと解いて手を中に滑らせた。 「ッ三郎!何して…!」 「ごめんなーその気になっちゃって」 まったく誠意が感じられない謝罪と笑顔を兵助に向ける。どけ、と三郎を拒絶するもいとも容易くその手は床に縫い付けられた。ぺろり、と自分の唇に移った真っ赤な紅を舌で舐めとり、三郎は兵助の肌を弄り始める。脇腹から臍へをゆっくり撫で上げれば兵助の体がぞくりと震えあがった。 「ばかっ…やめろ!」 「なんで?」 「なんで、って、予習の邪魔すんな…!」 「房術の予習だと思えばいいだろう?」 「お前…ッ」 胸の先端を指で弾いてやれば、兵助は思わず唇を噛んだ。 「兵助ここ好きだよな」 「やッ三、郎」 「良くしてやるから黙ってな、…お嬢さん」 ちゅ、と兵助の髪を一房掴んで口付ける。その動作にくらりと眩暈がした。自分はどうもこの目の前の男に弱いのだ、と兵助は自覚する。 するりと着物が肌蹴させられ冷たい床の感触が肌を伝う。折角の女装を脱がしてしまうのは勿体ないと完全には脱がさず中途半端に留めた。もう抵抗する気はなく、兵助はただ自分の声を抑えようと腕を口に宛がった。けれどそれを三郎に引きはがされる。 「せっかく綺麗な紅してんだから、良く見せてくれ」 「ッあ、でも、声っ」 「この時間誰も長屋にいやしねえよ。それに、兵助の可愛い声聞きたい」 かあ、と兵助の顔に熱が灯った。そんな彼の口の端に唇を寄せ軽く吸い上げる。くすくすと笑う三郎はどこか上機嫌だ。 不意にすす、と三郎の手が兵助の内ふとともも擦った。びくり、と背中を跳ねさせている間に三郎の手がその中心に移動する。明らかに反応を見せているそれに触れられ、思わず身を捩った。 「やっ」 「感じてんの」 つつ、と上に指を滑らせると兵助が足を閉じようともがいたが、その足を掴んで逆に開脚させた。まだ明るい内にそこを露わにされることが気恥ずかしいのか、再び抵抗を見せる兵助だったが三郎は躊躇いなく後孔に触れる。 「本当はもう入れちまいたいけど、慣らすな」 ごくりと喉を鳴らした三郎の声が思ったより余裕が無さそうで、そういえば最近互いに忙しく会うこともこういった行為をするのも久しぶりだった気がすると思い出した。 指の挿入を繰り返し、兵助のものから溢れる先走りが伝い卑猥な水音を響かせる。まだ指を入れているだけなのに、と内心興奮した。さて、十分に中を慣らしたところで、三郎の熱いものが宛がわれた。 「兵助、」 「んっなに」 「入れていい?」 「ッんで、そこで…聞くんだよっ」 余裕が無いのは兵助も同じで、潤んだその瞳で強気に三郎を睨みつける。 「じゃあ、入れて欲しい?」 「ばか!早く入れろ!」 「マジ兵助男前」 女の格好してる癖に、なんて軽口を叩く三郎が憎らしい。けれど次の瞬間、躊躇いもなくずぶりとそれが差しこまれ兵助は思わず声を荒げた。兵助の腰を掴み、一気に全てを押し込んだ。そのまま激しく抜き差しを繰り返す。 「あっ、ん、んッやあッ」 「ここ?気持ちいーんわけだ」 上の方を強く突き上げれば兵助から更に高い声が上がった。腕を三郎の背中に回し、しがみ付く。その行為にまた三郎のものが反応を見せる。 「やっ、もうッ、ん」 「やばい兵助色っぽい」 化粧のせいかいつも以上に艶めかしく思える兵助に、行為中にも関わらず欲情せずにはいられなかった。何度も何度も腰を打ち付ける。 「あ、も、無理ッ」 「いいぜ、出しな」 思いっきり突き上げると、兵助は白濁を自分の腹にぶちまけた。同時に、三郎も己の欲望を彼の中にあふれさせる。 暫くは二人して床に突っ伏していたが、乱れた着物で自身の欲望に濡れた兵助に再び三郎が欲情したのは言うまでもないだろう。そしてもう二度と彼には化粧などさせるまいと心に誓う兵助であった。 了. --------------------- ユカさんリクエストになります!遅くなってすみません! 久しぶりのエロで難しかったですが、楽しかったです。女装設定をあまり生かせなかったような気がしますが。兵助くんのお化粧について考えるのは楽しいです。 リクエストありがとうございました!ユカさんのみお持ち帰りOKです! |