鬼を愛す
「今、私の後ろに立つな」
小平太は感情の籠らない声でそう言った。ここは戦場で、足元には先ほどまで息をしていた人間が転がっている。六年ともなれば実戦訓練として戦場に駆り出されることも少なくない。
小平太はまさに鬼だ。そう記すのが一番しっくりくるだろう。一度割り切って戦場に立ってしまえば驚異的な実力を見せつける。殺人衝動とでも言おうか、止まらないのだそうだ。そんな奴はとても危険だった。自分でも分かっているらしく、奴はそんな自分に友が近寄るのを嫌った。恐れているのだろうか、親しい友に恐れられるのを。怯えているのだろうか、私を傷付けてしまうと。嗚呼、なんとも気持ち悪い。
一歩、踏み出した。
「寄るな」
「断る」
尚も拒絶する小平太にそう言って私は奴に近付いていった。私の近寄る気配に振り返った小平太の顔はまさに、鬼。
「仙、」
その鬼が私を呼ぶ前に、胸倉を鷲掴んで引き寄せる。吸い上げた唇は鉄の味がした。不味くて仕方ない。
「小平太、私を見ろ」
同じように此処に立ち、同じように刃を振るい、同じように血に塗れる。そんな私たちも、
「私も鬼だ」
小平太がきょとんと眼を丸くする。思わず笑みが零れた。
「酷い顔だな」
私も、お前も。
そんな鬼すら愛おしい。