頬が汗ばむ程の温もりに目を覚まし、エースは乾いた瞳を二、三度瞬いた。頬に張り付いた髪を指先でどかして、周りを見渡す。自分の部屋ではないことくらいは、ぼやけた脳みそでも理解できたが、どこで眠ってしまったのかの判断がつかない。
けれどこの、独特のにおいとあたりの風景からしておそらくは。言い得ない気持ちを交えながらも、ちらりと頭の上に視線を移した。
「チョコボ……」
そして、隣には。
「……、……マキナ」
脚をおりたたんで、丸くなるみたいに眠る背中。さながら猫のようだ、とエースはそう思った。あまりにもしあわせそうに眠っているので起こすのがはばかられたが、ここに置き去りにするわけにもいかない。
そっと肩に手を置き、身体を揺すってみる。
「マキナ、朝だ」
うう、と短く呻いて、顔を隠してしまった。意外なところで寝起きが悪いのか、なかなかに手ごわい。
「起きないと置いていくぞ」
「んん、」
寝返りをうって仰向けになったマキナの眉間に、シワが刻まれる。エースは苦笑して、それを人差し指でのばすように撫でた。せっかく穏やかに眠っていたのに、なんだか申し訳ない気持ちだ。
薄く持ち上がったまぶたから、翡翠色の瞳がのぞく。
「……、エース?」
「ああ。おはよう、マキナ」
す、とマキナが腕を伸ばしてきたので、ぎゅっと握って、指を絡める。瞳が笑みの形に細くなる。エースもつられて笑った。
「生きてる」
確認するように、言い聞かせるように、祈るように、マキナは呟いた。エースはしっかり顎を引き、したたかに首肯する。握った手に、すこしだけ力を込めて。
「生きてるよ。クリスタルに感謝しないとな」
「そうだな」
頷いて、マキナは視線をさ迷わせた。きょろきょろと器用に動く瞳を見つめながら、エースは小さく首を傾いで見せる。いまさら気付いたのだろうか、その様子がすこし可笑しかった。
それから、あっ、と短く叫び、文字通り飛び起きるようにして、マキナは上半身を起こした。チョコボも驚いたようで、くええ、と鳴いて飛び起きる。
「マキナ……」
「わ、悪い」
「いったい、どうしたんだ?」
右手で額を押さえ、長く深く息を吐き出す。マキナが慌てている意味がわからなくて、朝からいそがしいものだとエースは思った。そのまま手のひらで顔を覆ってしまったマキナの返答を、じい、と待つ。
「エースに用事があって」
「僕に?」
「ああ。それで、ここにきてようやく見つけたんだ」
「うん」
「そしたら、チョコボと寝ているし」
そろそろ教室に行かなくては、と場違いにもぼんやり思う。
「起きるのを待ってるうちに眠くなって」
マキナが言葉を発するたびに、どんどんいたたまれなくなってきて、エースは顔を俯けた。
「起こしてくれたらよかったのに」
「盲点だった……」
途方に暮れたようなつぶやきのあと、ふたりのため息が重なる。よく考えてもみれば、全身チョコボ臭いし、寝癖もついているし、ひいては顔も洗っていない。散々だ。
「用事って、なんだったんだ?」
「クラサメ隊長が呼んでた」
「……あーあ」
怒られるだろうか、と言ってマキナが笑う。間違いなく、と返すと、エースも可笑しくなって噴き出した。
「マキナが起こしてくれなかったせいだ」
「エースが眠っていたからわるいんだよ」





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君の体温に溶けている






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