!学パロ



びゅうびゅうとひときわ強い木枯らしが、晩秋の冷たさを運んでエースの鼻先をかすめていった。てらてらと明るい晴天と裏腹に、近頃の気温は身を震わすほど寒い。夕刻となれば尚さらだ。
後ろのドアががらりと開く音に、エースは慌てて窓を閉めた。風を孕んでふわふわと揺れていたカーテンもおごそかに閉じてしまい、くるりと大きく身を振る。
「遅くなってごめん。待ったよな?」
「ううん、そんなに」
机に放っていた学生カバンの取っ手を乱雑に掴み、足早く入口に佇むマキナに歩み寄った。すっと両手が伸びてきて、エースの頬を挟み込む。袖から露出している指先がひどく冷たくて、なぜだかはやく暖めてやらなくてはと思った。
「うそ。鼻の頭が、待ちくたびれましたって色をしてる」
「ほんとうだって。そんなに長く風にあたったりしてない」
ほんとうに? とマキナが首を傾げる。半分ほどうそがまじっていたが、エースは首を縦に振って、頬に触れる手をほどいた。マキナの脇をするりと抜けて、身体を廊下に滑らせる。
「ほら、いこう。はやく」
調子外れに真っ赤な秋を口ずさむと、図鑑でしか見たことのないからすうりの実が脳裏に浮かんだ。歌詞のとおり、確かにとても真っ赤な実だった。
マキナがふっと笑う気配を背中に感じて、エースは足取りも軽く踊るように歩を進める。約束していた勉強会のため、突き当たりの図書室へと向かって。

▽△

ドアをくぐると、司書と目があった。ふっと和らいで綻ぶ目元に微笑を返し、マキナの背について定位置を陣取る。図書室は相も変わらぬおとなしさでふたりを迎え入れ、鈍い駆動音を奏でる空調が、ふたりの身体をふわりと包み込んだ。
三つ並んだ長テーブルの一番奥、その右端に向かい合って座るのがルールのように、何も言わずとも当然という様相で椅子を引く。エースが足元にカバンを置くのとほとんど同時に、マキナが口を開いた。乾燥ぎみの唇が引き攣って窮屈そうで、すこしだけ裂けてしまわないか心配になる。
「勉強する前に、ちょっといいかな」
「本を借りに行くんだったら、僕も一緒に行く」
「ああ、植物図鑑に用事があって」
「植物?」
「エース、歌っただろ。からすうりって真っ赤だなって。見たことないんだ」
あたりがしんとしているため、ふたりとも自然と声量はすくなくなる。こそこそ話をするみたいにマキナがそう言ったから、エースは子供が秘密を共有しあうみたいで可笑しくなって、ふふっと笑った。それからすこしだけどきどきする心臓の音を聞きながら、図鑑の棚へと小走りにマキナを追従した。
「僕も図鑑でしか見たことないんだ。小さいころに」
しゃがんで棚を物色するマキナの横顔に言う。へえ、と短い相槌が返ってきたあと、大きくてやや古ぼけた図鑑の一ページを覗き込んだら、真っ赤なからすうりの写真が目に飛び込んできた。
「ほんとうに赤いんだな」
けれど、からすうりの写真はすぐに、うれしそうな表情でこちらを向いたマキナの顔で見えなくなってしまった。エースはまた笑いそうになって、慌てて唇を結ぶ。長い睫毛に縁取られた翡翠色と視線が絡んで、さっきよりもずっとどきどきした。耳元まで響くほどうるさい心音を奏でる胸に手をあてて、そっと瞼を閉じる。
一瞬だけ触れて離れたマキナの唇はやっぱり乾燥していて、エースはたったいま、ふたりで秘密を共有したのだと思った。ぱっと目を開くと、マキナのすっかり血色がよくなった頬に出会う。
「マキナの頬も、からすうりに負けないくらい赤いよ」
「いや、……ごめん。お前といると、どこだろうとキスしたくなるのは、どうしてだろうな?」
それは僕がマキナとキスをしたいと思っているから。とは、さすがに言えなかった。けれど、今のはそんな雰囲気だったと思う。図鑑を開いてしゃがみこんだままのマキナをよそに、エースは悪びれせず立ち上がって言った。
「そういえば、図書室だった、な」
知ってたけど。付け足す前に、マキナの指がエースの鼻をとらえた。親指と人差し指で摘まれて、おもわず奇妙な声が上がる。
「いいんだ。俺のほっぺた、エースの鼻とお揃いだから」
「な、言ったな! 外に出たらいまに鼻だってお揃いになるさ」

▽△

「そこ、図書室では静かに!」





/201111120404 3sen req thx!
ピンクに魔法をかけて君とキスをしました






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