!ぬるいえろ



「ほんとうにいいのか?」
マキナがこの言葉を口にしたのは、これで二度目だ。一度目はマントを取り払ったエースの上着に手をかけながら、顔を俯け、睫毛をそわりと震わせて言った。対してエースは、微動する手をマキナの肩に置いて、その額に唇を落とすだけだった。
マキナは決心したように上着の釦を外し、おそるおそるといった様相でインナーをたくしあげ、あどけなさすら感じさせるエースの薄い胸に指を這わせた。徐々に自らの白い肢体が晒されていくたび、マキナの冷たい指がさらりと皮膚を撫でるたび、エースは羞恥と幸福で蕩けそうになる表情を華奢な腕で隠す。
「いつまで、……いつまで胸ばかり撫でているんだ」
顔を覆う腕のせいでくぐもった声が、マキナの手を止めた。
「肌、綺麗だなと思って。嫌だった?」
焦ったような返答だった。もしかしたら、マキナも同じ気持ちでいてくれているのだろうか。触れること、触れられることに対して、喜びを感じてくれているのだろうか。それを噛み締めていたいと、思ってくれているのだろうか。
エースは素直に首を左右に振った。短い髪がパサパサと音を立てて、白いシーツに散る。
「嫌じゃない」
マキナは息をひとつこぼし、そっか、と小さく呟いた。手のひらが再びエースの肌を撫でさすりはじめたが、今度は少し違う。申し訳程度にくっついている胸の飾りを、人差し指と親指で摘まれたのだ。
驚きから、あっと短く声が上がり、僅かにぴくりと肩が跳ねる。マキナの指がそこを捏ねくりまわすと、こそばゆさにたまらず身をよじって、吐息のような笑い声が漏れた。
「気持ちよくない?」
「くすぐったい」
そう返すと、マキナは突起を親指で押し潰した。ううん、と低く唸って、なおも懲りずにそこばかり弄るものだから、徐々に摩擦熱が生まれてくる。じわじわと熱くなっていくのに比例して、エースは微かながらも快感をひろいはじめていた。こそばゆさからよじっていた身体は、いつの間にか扇動するように動き、マキナを誘う。
「なあ、エース」
「ん、」
「手、どかさないか」
マキナの手が動くのをやめて、エースをジリジリと内側から溶かさんとしていた熱の波も引いていった。代わりに、言いようもない羞恥に襲われて、エースは慌てて顔を枕に埋める。
「いやだ」
「そんなに」
「当たり前だろう、恥ずかしい」
頑なに顔を隠していると、へぇ、や、ふぅん、などと呟いて、マキナがベルトのバックルに手をかけた。いきなりのことで制止もかなわず、するりとベルトを抜き取られ、下着ともどもスラックスを引きずり下ろされてしまう。
エースは慌てて上半身を起こして、マキナをぐっときつく睨めつけた――つもりだった。
「やっと顔、見せてくれたな」
それがなんとも、うまく流されてしまっていたみたいだ。マキナは満足げにふふ、と笑って、エースの髪を梳く。
そんなふうに笑われたら、かなわない。かなわないじゃないか。
すこし悔しくて、エースはもう一度顔を隠してしまおうと、腕を持ち上げた。しかし簡単にも手首を掴み上げられ、挙げ句、マットレスに押さえ込まれてしまう。
マキナの顔が目と鼻の先に、すぐ近くにある。視線が絡むと僅かに口角を上げて笑うマキナは、落ちた影も相まってかひどく色っぽいと、エースはそう思った。
「っ、卑怯だ」
「油断してる方が悪いだろ」
剥き出しのまま閉じられた白い足を膝で割り、マキナはそっとその中心へと手を運んだ。
「あッ、」
エースのさして大きくない陰茎は容易くマキナの手のひらにおさまり、触れられる感触と体温につい身体が収縮する。ちらりとマキナの顔を見上げてみると、「大丈夫だよ」と言って微笑んで、もう一度優しく髪を梳いかれた。
緩急をつけて握りこまれたり、ゆるゆると上下に擦られれば、鈍く緩慢とした心地よさに下半身が弛緩する。徐々に中心に熱が集まり、硬く立ち上がるころには、先走りの液がマキナの手をしとどに濡らしていた。
「マキナ、ぅ、ン…ッマキナ」
ぎゅうと目をつむって名を呼ぶ。生理的に溢れてきた涙が、表面張力を失って頬を流れていく感触がした。そっと瞼を持ち上げると、滲む視界の真ん中でマキナが笑う。優しい笑顔なのにどこか余裕なさげで、エースは自由な左手をマキナの頬へと触れた。
啄むみたいに、唇が眦におりてくる。いとおしくてたまらない、言われなくてもわかるくらいに優しく、そっと口づけられる。
「エース、気持ちいい?」
陰茎を握る手が上下する速度を増し、鈴口を親指で引っかかれるたびに下肢がびくびくと痙攣して、先走りを溢れさせた。荒く吐き出す息が震えてることや、下腹部に重たくのしかかる快感に、いやでも限界が近いのがわかってしまう。
「ぅく、ンんッ、そんなことっ、きくな……!」
手を下へと滑らせて、縋るみたいにマキナの服を掴む。喋ろうとすると悲鳴にも呻きにも似た形容しがたい声が唇から漏れて、エースの頬にさっと朱がさした。
「あぅ、やっ、は、マキナ、も……っ」
だめだも、むりだも、やめてもぜんぶ、尿道に爪を立てられた瞬間に弾けとんでしまった。背をしならせ、膝をがくがくと痙攣させ、もとよりぐっしょりと濡れていたマキナの手を白濁が汚す。ぴゅく、と残滓まで吐きこぼして、荒い息を整えようとエースは深呼吸を繰り返した。

そして白濁にまみれた指を奥まった後孔におそるおそるあてがい、マキナは二度目の「ほんとうにいいのか?」を口にする。
エースは余韻にぼやけた脳みそでマキナがなにを言っているのかをしばらく思考したあと、ああ、と思って、体を起こした。両腕をマキナの体に巻き付けて、胸に額をあてて目をつむる。
「大丈夫だよ」
達した後の倦怠感で、ひどく眠い。マキナの身体と密着しているから、尚さらだ。人であれ動物であれ、ぬるく包み込まれる体温は心地好い。
エースはマキナの背中を、子供をあやすときにするそれのように、手のひらでぽんぽんと撫でた。
「ちょ……おい、エース」
切迫した声で呼ばれたが、如何せんどうしようにも眠たい。返事をしようとしたが、瞼が開いてくれず、どろりとしたまどろみの中に溶解してゆく。起きなくちゃ、まだ、途中なのに。
ひどく気持ちが急いたが、それを境に意識がブラックアウトして、エースは眠りに落ちた。
部屋の中に、マキナのため息と、エースの寝息が飽和する。
「こんなだから、エースを好きなの、やめられないんだよな……」





/201111100141 3sen req thx!
愛に揺れる睫毛と境界線






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