要らない、足りない
サイスコ暗め こんなスコールは…ありえます(;´Д`)
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いつからだったか、もう思い出せない。
いや、思い出したくとも記憶が抜け落ちてしまって、思い出せないだけ。
G.Fの影響でいくつかの記憶が抜け落ち、実際サイファーとの懐かしい過去の思い出もほとんど思い出せないのだ。
サイファーも忘れた、と言ってるけど、それは絶対嘘。
時々こちらを見る視線は悲しそうなんだ。

知っているんだ俺は。
G.Fは外すことができる。
けれども、大切な人を守りたいがゆえに外さない、否外せない。
「スコール?どうした?」
「…いや」
窓の外をベッドの上から眺めてぼんやりと、そんなことを考えていたらいつ戻ってきたのか、台所の仕事を一通り終えたサイファーが隣に立っていた。
視線をなぜかそちらに向けることができなくて、俺はただひたすら窓の外を眺めながら短く、それでも十分すぎる長さの返事を返す。
「こら、俺様と話してるんだこっち向け」
おちゃらけた声音でサイファーはツンツンと俺の頬をつついた。
それでも俺は振り向けない。
体が硬直したように動かなかった。
「スコール?」
「…悪い、なんでもないんだ。ただ…」
不審がってサイファーがわざわざ俺の視線とぶつかるように、体を正面へと回り込ませてきた。
視線だけ彼を見つめて、そうしてようやっと体に力が入るようになり、小さく肩をすくめる。
だけど、ただ…の先の言葉が見当たらない。
サイファーは根気よく俺が言葉を探し当てて、紡ぐのを待っていた。
「ただ…空が…あまりにも綺麗で…」
真っ青な空を小さな雲が泳いでいく。
それを見つめて、きれいだといった。
サイファーはそれで満足したらしい。
小さく、そうか。と一言漏らすと俺の頭を撫でた。
優しく、それでいて力強く。


お互いに何も言葉をはっしない。
無言のまま10分ほど過ぎた頃。
「…俺任務入ってるから行ってくるわ。ちゃんとメシ食えよ?スコール」
たったそれだけを言って、名残惜しさも感じさせず、するりと任務へと趣いてしまった。
俺は未だに視線を空から外せないでいる。
サイファーが行ってしまうのは悲しい。
でもそれ以前に、心が寂しかった。

隠していた左手の手首を露出させる。
普段は見えないその手首には荒々しく包帯が巻かれていた。
その包帯をとけば、一筋の傷跡が。
痛くもなければ、痒くもない。
ただの跡。
右手に隠し持っていた小さな果物ナイフで、俺は無表情のまま傷口をなぞった。
要らない、でも足りない。
なにが?それがわかれば苦労しないのに。
何度も何度も傷跡をナイフでなぞる。

足りない、足りない、助けてサイファー…。
そう無意識につぶやきながら。
溢れた血が床を汚した。
それをみてもなお、足りないと心が訴える。
何が足りないのか、自分でも理解できない、その感情をぶつけるままにこうして何度も己の手首をサイファーが任務に出てるあいだに斬りつけた。
えぐりすぎて深くなった傷跡が、俺自身が何度もナイフをすべらせたことを証明している。

「スコール!」



唐突にドアが開いた。
持っていたナイフは叩き落とされ、背中に鈍い痛みが生じる。
何事か、と麻痺していた思考で状況把握をした瞬間、一気に思考がクリアになった。
悲痛な顔のサイファーが、任務に出たはずのサイファーが目の前にいて、俺の両手首を壁に押し付けるようにして、拘束していたのだ。
「あ…」
何をしていたのか、知らなかったわけではない。
ただ、わからなかったのだ。
己がしている感覚が。
「…お前の様子が最近、おかしいことには気づいてた」
サイファーが泣きそうな顔をする。
「いくら呼びかけても反応しない時があったし、反応しても何かに取りつかれた様に、身じろぎすらしねーでどっか見つめてるときもあった。お前が気づいてるかは知らねーけどよ」
気づいてる、けど、自分が行っているという感覚がわからないだけなんだ、サイファー。
そう言いたくとも、彼の表情がそれを拒む。
「俺が任務に出て帰ってくると、必ず包帯が減ってた。けど、それは自主練のせいかと思ってたんだが、脱がしてもどこも怪我してない上に…気づいてたか?筋肉が逆に落ちてんだよ」
きりきりと、手首の拘束が強くなる。
「何してるのかと、任務に出たフリして覗いてみりゃ…そしたらこんな…っ」
ドンッと近くの壁を叩かれた。
衝撃に思わず身を竦める。
「スコールどうしちまったんだ!!!???」
力任せに、抱きしめられた。
ああ、ぬくもりだ。あったかい。なんて思ってるあたりやっぱり俺はおかしいのだろうか…。
「…俺、要らない。でも…足りないんだ。この足りないものがわからない、いらないもの分からない」
無意識に、ずっとサイファーに問いかけたかった疑問を紡いでいた。
「何をしても、要らない、でも足りない感情が湧いてくる。抑えられない。行為をやってるって知ってるのに、行っている自覚がわかんないんだ…、サイファー…」
最後の一言が言えなかった。
言いたいのに、うまく口が動かない。
サイファーは青ざめた顔をしながらも、俺を抱きしめ続けてくれた。



「…サイファー…助けてくれ」



ようやくその言葉を放った瞬間、体が急に重くなって段々と視界は黒く塗りつぶされていった。





気づいて目を開けた。
真っ白だった。
そして一定の間隔でなる音。
サイファーはどこだ?と探して伸ばした腕に鈍い痛みが走った。
おや?と首をかしげてみた腕には、点滴が刺さっている。
そして真っ白な包帯が巻かれていた。
そして、俺は気づく。
ここは、医務室だ…。
「よ、目覚めたみてーだな」
声がしてふとそちらを見れば、記憶より幾分か疲れた顔のサイファーがいた。
俺は安心した勢いで身体を起こし彼を見つめる。
…なぜだろう、とても悲しい。
なにか、自分がしてしまったような。そんな感覚に囚われた。
つきり、と小さく手首が痛む。
「サイファー、なぜ俺はここにいるんだ?」
ふと、サイファーは目を見開いた。
そして、そのあと泣きそうな顔で俺の頭を撫でる。



     

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