Episode-03 捨てられた神
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「お前は鍵の側にいながら、なんという失態を…!」
「申し訳ありません…」
僕は、事の発端と、現状の報告のため機関に来ていた。
話せば、怒鳴られる。当たり前だ。覚悟はしていた。
神様の暴走を唯一止め、そして神様に唯一意見できる存在の彼が、忘れてしまったのだから。
それも、彼女自身だけを、ごっそりと。
まるで落としてきたかのように。

「起きてしまったことは仕方ない…古泉」
「はい」
「お前に特別任務を遂行してもらう。嫌とは言わせんいいな?」
上司からの特別任務。
僕はいま、一秒でも彼と離れているのが惜しいくらいなのに…。
「…はい」
しかし、頷くしか僕の道は残されてはいなかった。


* * *


――神様のいたずらは、遠い遠い記憶の彼方。いらないよ、そんなもの。だって、神様ばっかりずるいんだ。知らないけれど、見たことはないけれど、神様のことは嫌い。だって、ほら。俺から取り上げて言ってしまうんだもの。

『お前、嫌いなのか?神様が』
『嗚呼、嫌いだな。だって、俺の大事なもん奪っていくんだぜ?』
『それは、わかってたはずだろ?お前は二番。神様は一番なんだ』
『…何の話だ?』

『お前は神様には負けるってことだよ』

* * *


ふと、彼の目があいた。
僕は、規則正しく寝息を立てる彼の側に座って、目を覚ますのを待っていた。
「お目覚めですか?」
ここは、病室。
変わらない、あの時と一緒の病室だけど今は穏やかだ。
「ああ」
目をこすり、身体を起こす彼を支えようと背中に触れた。
じっとりと濡れている。
「…なにか嫌な夢でも見ました?」
嫌な予感がした。
背中が濡れるなんて、寝汗としか考えられない。
もしや、なにか記憶に繋がるような夢でも見たのだろうか。
とどこか期待をする自分と、彼を心配する自分がいた。
「いや…ただ…」
「ただ?」

「神様の話を思い出しただけだ」
神様という単語を聞いて、不覚にも動揺してしまう。
ああ、僕はまだまだだな。
「神様…ですか?」
彼は思い出したのだろうか?
そんな僕を見て、キョンくんは不機嫌そうにまゆを寄せる。

そして、

「神様なんてきらい…」

彼の口からそうポツリと言葉がこぼれた。

「キョンくん?」

「ずっと、ずっと苦しかった。息ができなかった。喉に何かかたまり突っ込まれたみたいに苦しくて、なにも喉通らなくて。本当に苦しかった」

彼の心が叫ぶように、苦しいとキョンくんはしきりに繰り返した。
きっと、ずっとこんな苦しい思いを抱え込んでいたのだろうと、そこで初めて気がつく自分に腹が立つ。

「でも今は…」

どうやら、本能的に神様はわかっているらしいが、頭が。
体が、心が拒否しているみたいに、彼の奥底に彼女を封印してしまったらしい。
その証拠にキョンくんは、さらりと一筋の涙を流しながら、こういったのだ。

「今は…苦しくないよ」




 

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