Episode-02:忘れ物04
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「なにやら計り知れない、治癒力ですねぇ…あれだけ荒れていた胃が元通りになっています」

ナースコールを受けて駆け付けた医師が、感心するように息を吐いた。
キョンくんからは点滴が外され、いままで重苦しいほどによどんでいた病室の空気を入れ替えるかのように、窓とカーテンが開けられた。
彼は、気持ちよさげに、外の空気を頬に受けて優しい眼差しで外を眺めていた。
「うむ、いいでしょう。食事を許可します。ただし、まずはお粥から、ですからね?」

「はい!」
キラキラと生気に満ちた目を医師に向けて彼は、嬉しそうに首を振った。


* * *


「はい、キョンくん。あーん」
「いらん!自分で食べれるっ」
昼食がほどなく運ばれてきて、僕はさっそく以前から試したかったことを、彼に実践していた。
が、しかし、彼は嫌がって口をあけてくれない。
それどころか、元気になったのをいいことに、全力で僕の手に握られたスプーンを取り返そうともがいている。
「こら、あまり暴れるとまた具合悪くなりますよ?」
「平気だ!スプーンよこせ!」
彼の手の届かない場所までスプーンを持ち上げて、無防備だったキョンくんの額へキスをする。
「な…っ」
動揺して、スプーンを追いかけることをやめたキョンくんに、僕はすきをついてぱくっとお粥を口に含んだ。
「…あー!」
そして、抵抗する暇も与えず、にこりと笑って彼に口づけをした。
彼の口を割って、お粥を口移しする。
「ん…むぅ…っ」
そのまま、しばらく味わっていなかったゆえか歯止めの利かなくなった僕の理性がとうとう、ぶっ飛びお粥を咀嚼する前に舌を入れてあぎをなぞり、舌を絡めた。

「ふぅ…ん…」
彼の鼻から抜けるような甘い声に、頭がくらくらする。

どれぐらいキスをしていたかわからないほど、彼とのキスを堪能した僕は漸く口を離した。

「おま…え…っ」
怒りと恥かしさで顔を真っ赤にした彼がぎろりとにらむ。
キョンくん、そんな涙目じゃ逆に男心を煽るだけですよ?と心の中で忠告するが今はだれもいないからよしとする。

そこへ、一通の電話がかかってきた。

「すみません、出てきますね?」
「…ん」

漸くスプーンを取り返した彼が、生き生きとした様子で、お粥を一口口に運ぶ。
その姿を見て、僕は病室を後にした。



「もしもし…」
「あ、古泉君?キョンの風は治った?」




 

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