Episode-02:忘れ物02
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「一時的に酸素が脳に行かなくなった影響で、記憶障害が出るかもしれません」
さんざん泣いて、ようやっと涙が止まったあたりで、医師から言われた。
「記憶障害…ですか?」
「はい」
神妙な面持ちで頷く医師を見て再び涙がこみ上げてきた。
僕はこんなに涙もろかっただろうか?
どうも彼のことになると、涙もろくなる。
「記憶障害とは…どのぐらいの…?」
奥歯を噛み締めて涙をぐっとこらえた。
医師はわからないと首を横に振る。
「自分のことすら全て忘れてしまうか…或は、一部分なくなっていまうというケースも確認されています」


*  *  *


僕は、病室に戻ってきていた。
目の前には先ほどよりもだいぶ生気のともった顔色をした彼がベッドで安らかな寝息を立てている。
すぐそばの椅子に座って、彼の手をぎゅっと握った。
少し暖かい。
でも、少し冷たい。
彼の手を温めるように、何時間も握り続けた。

「…ん…っ…」
キョンくんの体が動いた。
目覚めたのか、と期待を込めて彼の顔を眺める。
しばらくゆるくまぶたが痙攣していたと思ったら、その下からずっと願っていたあの黒く綺麗な瞳が現れた。
「キョンくん…!」
くるりと綺麗な光彩をたたえた瞳が動く。
そうして、彼は口を開いた…。


 

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