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陶酔境に浸る


※R15
性行為をにおわす表現があります。15歳未満の方の閲覧を禁じます。


たまたま訪れたHE★VENSの寮で、メンバーがエンジェルのために、とメッセージを用意している様子を見て私はハッと思い出した。2月14日、愛と感謝をつたえる日。何やら世間がそわそわしていたのは、これのせいだったか。
HE★VENSの新曲、ドラマなどの新情報が一般に正式公開されてから、私はマネージャーとしてそれらのイベントを成功させるべく、ひたすら業務を全うしていた。
ウェブサイトや広告のほか、撮影者との打ち合わせ、メンバーのスケジュール管理、グッズのサンプル確認など、表から裏まで、また左から右へと流れてくるものに限らず、私自身のアイディア提案などありとあらゆる仕事をこなしていた。もうそれは、時の流れを感じるのを忘れるほどに。それだけ夢中になっていたのだと思う。だからこそ、バレンタインデーなんて言う世俗的なイベントを本日迎えたことなんて、とうに忘れていた。
そして、恋仲関係にある瑛一に、なにも用意していなかったことに私は一人でショックを受けていた。どうしよう、急いでどこかに買いに行かねば、そう思って踵を返した瞬間。

「名前」

最愛の人が私を呼ぶ声が聞こえた。寮に訪れた私に気づいて瑛一が私に「おいで」といわんばかりに手招きをしている。

「今少し時間あるか、俺の部屋に来てほしい」

そういいながらも、彼は私の有無を問わずに手を取って半ば強引に部屋連れてゆく。バレンタインの贈り物なにも用意していないこと、知ったら彼はショックを受けるのだろうか。申し訳ない気持ちでいっぱいで彼の背中を見つめる。
彼に引きずらるるまま、部屋に入ると、瑛一愛用のフレグランスの香りがふわっと鼻をかすめた。

「受け取れ、名前」

そう言って突如、中くらいの大きさの箱を渡される。それは、彼のイメージカラーを連想させるかのように、赤い包装紙、紫色のリボンでラッピングされていた。見た目の大きさにしては少し軽かった。

「えっ……私に……?」
「ああ、いわゆる逆チョコというやつだ」

リボンをほどいて包装紙を解くと、そこには見たこともないブランドの刻印がなされた箱と対面した。箱の裏側には、成分表と思わしきものがすべてフランス語なのかオランダ語なのかわからない言語で書かれていた。そういえば、瑛一はよくナギをはじめとする甘いものが好きなメンバーのために、ベルギーからチョコを取り寄せていたりしていた。きっとこのチョコもそうなのだろう。
箱を開けてみれば、大粒のチョコが8つ、規則正しく並んでいた。カカオのふわっとした香りが鼻をくすぐる。今日は忙しくて何も食べていなかったから、思わずごくっと唾をのんだ。

「すっごい高級そうなチョコ…おいしそう。あのね、ごめん瑛一。正直に言うと、今日がバレンタインデーなのすっかりわすれてて、なにも用意できてない……」
「気にするな。しばらくろくに休んでいないようだな。お前のことだから、仕事に夢中になりすぎて世間から切り離された世界に迷い込んでしまったのだろう」

ふと優しげに笑う。彼の美しすぎる顔がまぶしくて、私なんかと付き合っているのが不思議なくらいだった。

「それにバレンタインの贈り物はどちらからでもいいのだろう?ならば俺から愛を誓わせてくれ」

小さな8粒のチョコレートに、瑛一の「愛」が籠められているのだと思うと小恥ずかしくなってくる。

「……食べてみてもいい?」
「ああ、勿論だ。だが名前は連日の仕事で疲れているだろう、俺が食べさせてやる」
「え、いいよ自分で食べ…」

自分でチョコをつまもうとしたがそれはかなわなかった。瑛一の大きな手が私の頼りない手首を制し、チョコの箱を取り上げた。一粒つまんだかと思ったら、瑛一は徐にそれを彼自身の口にくわえた。
瑛一の不可思議な挙動に、目を点にしていると、瑛一のしっかりした腕が私の腰を抱いた。身体ごと全て彼に引き寄せられ、チョコを咥えたまま強引に口付けられた。
反射的に口を半開きにしてしまったのを奇貨として、口内にチョコをねじ込んできた。

「んンッ……」

そして、口の中に大粒のチョコが含まれたかと思えば、瑛一の舌が私の口内を容赦なく蹂躙する。
舌の温度でチョコがトロっと溶けていくのがわかる。日本のチョコと比べてミルク成分が多くて甘い。
芳醇なカカオの香りが満たされ、後にじわっとシャンパンの味が広がり、口内はアルコール特有の香りに支配された。愛らしいミルクチョコ味から一気に大人なシャンパンの味へと変貌していった。
一粒のチョコが私の口内から姿を消すと、瑛一の舌が間もなく抜かれる。瑛一の顔を見れば満足そうに私の情けなくなった顔を見ていた。少しだけ屈辱を覚えるも、その残酷なほど純粋な表情をみると反抗する気力もうせてしまう。

「さ、さけ……?」
「ああ、そうだ、名前は酒が好きだろう、度数高めのシャンパンが入っている。どうだ、美味いか」
「お、おいしい……」

高級そうな包装を裏切ることなくそのチョコは確かに今まで食べた中で最も美味なるものの一つだった。

「ふっ、名前の顔、チョコみたいにトロトロになっているぞ」
「……ばか」

ほら、もう一つだ、口を開けろとかいって、先ほどと同じように、瑛一が咥えたチョコが私の口内に侵入する。じわじわと、体の奥が熱くなっていくのを感じる。
頭の奥がジーンとする。風邪で熱を出したときみたいに。脳の細胞が熱で死んでしまうのではないかというくらい。
そうこうしているうちに、3回目の口づけが降ってくる。もう勘弁してといわんばかりに彼の胸を思い切り手のひらで押しのけようとするも、むしろそれは彼の心をくすぐるにすぎなかった。そのため、1回目、2回目のそれとは比べ物にならないほど、長く、激しい口づけとなってしまった。

「も、もうだめ……瑛一、なんかへん」
「酒のせいか、顔が真っ赤だな……実に可愛い、ゾクゾクするほどにな」
「うっ……ばか……」
「ここしばらくお前に触れていなかったな…そうだなお前からの贈り物がない代わりにとは言ってはあれだが。名前自身を頂くとしようか。さて、まだチョコが5つ残っている。食べ終わるまでお前は耐えられるかな」
「も、もうゆるして……」
「涙でぬれた表情で言われても、俺をあおるだけだぞ」

腰に腕を回している方の手が、私の太ももから尻にかけていやらしく撫でる。
一体何粒目のチョコを食べきったのだろう。私はもう、私自身今現在どこにいるのかすらも分からなくなるくらい、脳みそが溶け切ってしまっていた。熱で脳みそがゆで卵みたいになったのか。
アルコールのせいか、鼻の先までぼーっとする。ウィスキー程度ではほとんど酔わないくらい、お酒には強い自信があったのに。チョコに入っているアルコール量なんて、たかが知れているのに。まるで何合も日本酒を飲んだ後のようだった。
瑛一が欲しい。彼に愛され、抱かれたい。そんな気持ちが燃えるように増幅する。そんな情けないほど彼に溶かされた私は、瑛一のベッドへ、膝を折って仰向けに寝転がる。瑛一が欲しくてほしくて仕方ないと訴えているかのように濡れた下着が彼の位置からはっきりと見えてしまうこともお構いなしに。多分、一生に一度あるかないか。私の最も乱れ切った姿になっていたと思う。

「もうやだ、瑛一。早く私を食べて」
「……まったく、どこでそんな誘い文句を覚えてきたんだ」

私の上にのしかかった瑛一は、私にまた深い口付けを贈った。今度はチョコはなく、彼の舌をダイレクトに感じる。ほんの少しだけチョコとシャンパンの味がした。頭がくらくらと、脳みその芯がまるで蝋のように溶けてゆく。
徐々に服が脱がされていく感覚が、少しだけもどかしい。

「名前ッ……」

紅潮した頬、濡れた瞳、熱い吐息。彼から感じる全てから、彼も私と同じく、「欲しかった」が伝わる。
耳たぶから首筋まで、柔らかい部分を集中的に啄むように口づけていく。何個か痕もつけられていると思う。
わざとなのか、そうでないのか、チュッチュッと肉が吸われる音が耳にやけに残る。瑛一の大きな肩が私を求めるように揺れているのが見える。
聴覚も視覚も犯された私は、しっかりとした大きな背中に腕を回した。
チョコよりも甘く愛をささやき合い、酒よりも陶酔境に浸かれるほど激しく求め合った。

fin

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