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宵闇の月に狂わされる


※若干の性描写あります。15歳未満の方の閲覧を禁じます。

大の字に身体を広げても壁にぶつかることがないほど広くて開放的な清潔な大浴場。ここHE★VENS寮に併設された大浴場にて、私はここ数日の疲れを癒していた。首から足のつま先まで無駄なく湯を感じるのが何とも言えない。

「ああー生き返る……部屋の風呂もいいけどさ……やっぱり大きいのがいいよね…」

レイジングエンターテインメントにはスタッフ用の寮も完備されており、HE★VENSの作曲メンバーの1人である私も、その寮を利用していた。広めの1Kの間取りで、1人で生活するには申し分のない設備だ。
一方で、HE★VENSメンバー用の寮はまた別に存在しており、メンバー同士の交流が行き届くように、共用スペース等が用意されている。その共用部分のひとつに、この大浴場なるものがあった。
私の部屋風呂はよくある一般的な浴槽なのだが、たまには足を伸ばして湯に浸かりたいなと思う時がある。そのため、こうして夜中など誰もいない時間帯を見計らってこっそりと使用している。HE★VENSのために用意されたものだから、男、女風呂という概念はない。途中でHE★VENSメンバーが入ってきたら非常に厄介なことになる。ただ、メンバーはだいたい決まった時間にみんな一緒に入っているらしく、夜中となれば、誰も入っては来ない。だからこうして、私がこっそり湯に浸かっている。勝手な行動ではあるが、発覚さえしなければきっと平気だろう。万が一発覚しても、メンバーの中に幼馴染がいるから、何とかしてくれる、と思っていた。
さすが、レイジング事務所なだけあって、その大浴場は温泉施設顔負けの規模。ゴツゴツした岩でつくられた露天風呂はなんとも風情ある空間だ。
だが、そんなくつろぎの空間は、とあるものを確認するや否や一瞬にして消え去ってしまった。岩陰の向こうに、揺れる大きな黒い影。

「……えっ」

間違いなくそれは人影だった。HE★VENSの誰かが入ってきていたのか。慌てふためきながら、そっと離れようとする。

「…………誰か…居るのか…」

時は既に遅し、その人物も私の存在を認識できてしまったようだ。声からして、間違いない、皇綺羅だ。
彼は私のいわゆる幼馴染で、小さい頃から一緒にピアノ弾いたり、歌の練習したりしていた。彼の普段の喋り方から想像つかないような力強い歌が好きで、彼の曲を作りたいと思って作曲家を目指した。そして、半ば追いかけるようにレイジングエンターテインメント事務所へエントリーシートとデモテープを叩き送ったんだ。そんな私を見て綺羅は「とんだ……腐れ縁………だな」なんて苦笑いしていたけれども。彼より仲のいい男性はいないし、彼も私より仲のいい女性はいない。かと言って付き合っているわけではなかった。

「ナギか……?こんな……夜中に……起きてては……いけない」

そう言いながら綺羅は私の元へと近づいてくる。湯に浸かっているのに、その動きは早かった。

「……?!……名前!?」

目をこれでもかと言うくらい丸くして、彼の動きがピッタリと止まる。

「わ、私出る!ごめんね」

勢いよく踵を返して上がろうとする。いくら幼馴染でも、こんな姿晒すわけにはいかない。
この時の私は、羞恥に駆られ、慌てに慌てて、とにかくこの場から離れなければ……とそれしか頭の中になかった。だから、この風呂が岩で作られており、濡れていれば滑りやすくなってしまうことなんて、とうに忘れていた。

「……危ない!名前!!」

ツルッと勢いよく足を滑らせ、背中から風呂の中に落ち、ザッパーンと、立派な湯の柱が出来た。まるで漫画みたいな展開に、背後で綺羅の叫ぶ声がした。彼のあんなにも大きな声、歌唱以外で聞いたことがなかった。

「………無事か?」
「うん、ありが………えっ!」

心配してくれた綺羅にお礼を言おうとおもって、後ろを向いた瞬間、私は思わず心臓がでんぐり返りした。
風呂の中へと背中から落下した私を彼の身体が受け止めていた。そのため、見事に彼の身体と私の身体が密着していることになる。………もちろん彼も私も、入浴しているのだから裸だ。小さい時、確かに一緒に風呂に入ったことある。でもそれはお互い他者や自己の身体について何も分からない時分。今やもうお互い成人して男女の身体が十二分に出来上がっている。

「……!!!ごご、ごめん…!!」

急いで離れなければ…そう思って、彼が私の体を手でしっかりと支えているのにも関わらず、 勢いよく風呂の外へ飛び出そうとする。
その時、湯の中にあった彼の足に躓いてバランスを崩し、今度は正面から風呂の中にダイブしそうになる。

「あ、あわわあああ!?」
「……名前!」

だが。今回は湯の柱が出来ることにはならなかった。咄嗟に綺羅が私を後ろからギュッと抱きしめるようにして、前に倒れることを阻止してくれたからだ。
助かったと安堵したのもつかの間で、今ある状況に果たして「助かった」と言いきれるのか。裸のまま、私は綺羅に背後から抱き締められているのだ。しかも、今度は彼の腕が私のお腹から腰にかけて回っている。転倒しないようにしっかりと固定されているからだが。けれども、彼の大きなしっかりとした手の感触が、自分のくびれ付近に感じてなんとも言えない気分になる。加えて、綺羅の固い男らしい胸板を肩に感じる。

「あわわわわ………き、綺羅…」

自分の置かれている状況を把握して、頬に一気に熱がこもった。これは湯のせいではない。確実に、彼の…男性の身体付きを身をもって感じ取ったからだ。当たり前だが、幼い時とは全く違う。
ちらっと、振り返って彼の表情を覗き込む。
湯によって多少クセのあった髪型は、すっかりと重力に忠実になったかのように、ストレートになっていた。夜空のように真っ黒な髪、月のような黄金の瞳が、彼の艶やかさを際立たせていた。あまりにも妖艶なその姿に、思わずゴクリと生唾を呑んだ。
恥ずかしくなって、勢いよく顔を伏せる。そんな様子をしっかりと綺羅に把握されていた。私の顔はきっと羞恥で顔が真っ赤だし、視界も若干滲んでるから、涙も少し出ていたのだろう…。

「……ッ……名前……すまない…」

突然、綺羅が苦しそうで、どこか熱を帯びたような声を出す。彼の呼吸が少しだけ荒くなる。そんな彼の動作に私はまたドキッとする。幼馴染の彼は予想以上に「大人」になっていた。

「名前……」
「や、やぁ……まって…っ!」

綺羅が私の耳元でふぅと息をふきかけてきたと思えば、ちゅっと耳たぶをくわえてきた。突然の行為に思わず変な声が出てしまう。

「き、きら………だめ……んんっ……ふ……」

続いて耳の裏側に舌を這わせられる。ヌルッとした感触が、普段自分が触れることの無いそこを刺激する。どうしてこんなことをするのだろう、恥ずかしい、消えてしまいたいという気持ちがぐじゃぐじゃと入り混ざる。言葉が少ない彼の意図は行動から読み取るものの、彼から与えられる愛撫に私の思考は停止する。
すっと私の腹部にあった綺羅の手が上へと伸びていく。五本の指が動いているのを感じる。……全く気づかなかったが、胸は漏れなく全て露出していて、背後にいる綺羅にバッチリと見られている。ふにっと、卵を掴むように胸を揉まれる。時折その頂きを指先で弄り倒される。

「んんっ?!……まって、それ以上は………もう……」
「……好きだ………名前が……」

どさくさに紛れた、突然の告白。こんなタイミングで言うなんて綺羅は卑怯だ。ずっと私も同じ気持ちを隠し続けていたというのに。彼に曲を作りたいと同時に、彼と同じ場所にいつまでもいたい。そんな思いがあった。

「…………わ、私も……綺羅が…………」

絞り出すような声で、想いを伝える。ただ、お互い裸で、密着してこんなにも余裕のない状況での告白は若干不本意だった。

「…そうか……」

ポン、と頭をあやす様に頭を撫でられる。彼の声色は、いつもより優しく柔らかかった。

「………悪い……止められそうには……ない…」

彼は再び私の耳を甘噛みして、自身の余裕のなさを訴えかけてくる。

「んっ……続き……こんな形では、嫌だな?」

ベッドへ行こう、と促すと彼はコクリと頷いて私を風呂の外へと連れ出す。
脱衣所でタオルを巻き、綺羅に姫抱きされ、彼の部屋へと向かう。途中で誰にも見られなかったから、今が深夜でよかったと心底思った。
整理整頓が行き届いた彼の部屋のベッドに降ろされると、言葉を交わすまもなく口付けが降ってきた。彼は言葉が少ない分、行動で心の内を示してくる。黄金色の瞳が、「抱きたい」と嘆願している。
湯冷めした身体を再び温めるように、私と彼は激しく交わり、愛を囁きあった。

fin


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