小説 | ナノ

一なる想いで不変の調べを紡ぐ

※若干の性描写(本当に本当に少し)があります。


マジLOVEキングダムのライブが無事終了して、数か月たったころ。
かのライブ参加グループの一つであったレイジングエンターテインメント所属のアイドル「HE★VENS」では、とある企画が水面下にあった。
年始から1か月に1曲ずつ、メンバー一人一人のシングルCDをリリースする、というものだった。
ライバルグループST☆RISHのアルバムリリースに対抗しての企画だろうか。
当社では、天草シオンからはじまり、鳳瑛一でおわる。緑から、赤へ。ST☆RISHのリリース順とは対照的だった。
私は彼らの曲の作曲を、鳳瑛一の強い推薦により、依頼されることとなった。
作曲作業自体はこれまで順当に進んでいた。先週皇綺羅の曲を仕上げ、今は彼に作詞を依頼しているところだ。
そして、残すは鳳瑛一の曲作成のみとなった。

なる想いで、不変の調べを紡ぐ

私は、音楽大学を卒業しフリーの作曲家として活動していた。
その矢先、HE★VENSのリーダー、鳳瑛一から私の曲を見初められ、レイジングエンターテインメント所属の作曲家となった。
気づいたら作曲能力だけでなく、私自身も彼に惚れこまれていた。アイドルとの恋愛に葛藤はあったものの、彼のあまりにも真っすぐすぎる求愛にYESを言わざるをえなかった。
とはいえ、お互い仕事で忙しく、恋人同士らしいことはほとんどしていない。たまに二人きりになったときに彼から与えられる抱擁に身を溶かすくらいだった。

現在、私は作曲作業が難航してる。先に述べた鳳瑛一の新ソロ曲をどう構成しようかと悩みに悩んでいた。
もちろんメンバー全員に対して等しく尽力している。でも彼はリーダーとしてHE★VENSのすべてを担っている特別な存在だ。
そんな鳳瑛一に彼らしい曲を届けようと思っても、なかなかしっくりこない。
フレーズは思いつくものの、後に「やっぱり違う」と思うようになり、削除してしまう。何時間も格闘し、結局徹夜となってしまう。
2歩進んで3歩下がるような、そんな日々が数日ほど続いたころ瑛一が寮内にある私の部屋を訪ねてきた。

「名前、最近どうした、目のクマがあまりにもひどい。俺のために一生懸命なのはうれしいが、あまり根を詰めすぎるな」

私の顔を見るなり、彼は一瞬ギョっとして、目を丸くした。
そんな彼が少しだけ面白いと思ってしまったのは不謹慎か。

「さ、作曲がうまくいかなくて……」
「それで、ずっと寝ていないのか……」

机の上に散乱したドリンク剤やカフェイン剤をみて、彼は深いため息をついた。

「まだ締め切りまでたくさん時間はある。身体をちゃんと大事にしろ……」
「うん、でも……いいもの作りたくて」
「全く、身体を壊したら、それまでだろう」

ポンと、大きな手が私の頭に触れた。そして、ゆっくりと撫でられる。

「俺の実家のある甲府市付近に、レイジングが所有している休暇用の温泉旅館がある」
「え」
「週末、俺は仕事はない。お前もないだろう。だから共に行こう、二人で。そこで少し、心を休めるといい」
「う」
「お前が俺のために作る曲は常に最高なものであることはわかっている。その時が来るまで、俺はいつまでも待っている」

彼は私を信じているのだろう。私なりに納得いく音楽ができることを。
そしてそれが、彼の魂を大いに揺さぶる曲となることを。
そんな彼の誘いを断るなんてことができず、結局YESの返答をした。
そんな私を見て、瑛一は満足そうに笑った。

***


そして、いよいよ週末が訪れた。その間もほとんど曲が思いつかず、まさに、八方塞がり状態だった。
甲府へは瑛一所有の自動車で向かう。赤色のスポーツカーはまさに彼の個性を全面的に表していた。
東京から2時間ほど高速道路を走行し、甲府市内に突入した。
高速道路から出てから数十分ほどして、目的地である旅館にたどりついた。
老舗なのか、だいぶ年季の入った建物だった。それでも清潔感にあふれ、風情ある建物のつくりは来客を歓迎する。
車から降りたって、息を深く吸い込む。隣の県というだけなのに、東京と山梨では空気の質が全く異なる。
あまりにもおいしすぎる空気に、めいっぱい深呼吸したら思わず噎せてしまった。

「名前、大丈夫か」
「あ、うん……ただ空気すいすぎただけ」

あまりにも大げさに咳をしてしまったせいだからだろう。むやみに瑛一を心配かけてしまった。

若女将から案内された部屋は、角部屋の1番良い部屋だった。他の部屋とおなじ客室ではあるものの、レイジング関係者がいつでも宿泊できるように、一般の客の予約を受け付けていないものだそうだ。さすがは所有者といったところか。

「食事までまだ時間がある。先に温泉に入ってきたらどうだ」
「うん、そうする」

瑛一の勧めの通り、大浴場に向かった。他に人はいなく、私1人貸切状態だった。

「さいっこ〜」

私はぐっと全身伸びをする。こうしてゆっくり風呂に浸かるのは久々だった。思えば風呂に時間をかけることが惜しく、シャワーだけで済ませていた。
まるで温泉の海に抱擁されているような感覚。心地よい浮遊感に、思わず眠気が誘発される。風呂は命の洗濯、と言うのは本当だと実感した。

***

部屋に戻れば、食事の用意が部屋で進められていた。客室のテーブルに所狭しと並べられている。
色とりどりの野菜の煮物、美しい光沢をもつ刺身、良質な肉を使った焼物、あたたかい炊きたてのご飯。いずれもしばらく口にしていないものばかりだった。

「思えば、まともな食事、久々だな…」
「普段、何食べてたんだ」
「……カロリーメイトと、チョコレート、コンビニおにぎり……とか…あとコーヒーひたすら飲んでたな……ああ、あとたまーにファ〇チキ……」
「……ひどいな」
「片手で作業しながら食べれるものセレクトしてるからね!」
「そこ、誇るところではないが」

はあ、と大きなため息。最近よく瑛一のため息する姿をみかける。十中八九、私のせいだが。

「とにかく、今日は遠慮しないで食べろ」

箸で里芋の煮物を口に運びながら、瑛一はそう呟いた。彼は食べ方まで美しい。育ちの良さが伝わってくる。スタイルも顔面もよく、そして動作も美しいなんて、なんと全美なことか。

***

「の、飲みすぎた……」
「はあ……ほら、俺に掴まれ」

本日だけで2度目の大きなため息。注がれた日本酒がとても美味しくて、久々のお酒に自分の身体は喜んでしまい、ついつい飲みすぎてしまった。
瑛一の飲むペースが早いからつられてしまったのもある。

「夜風に当たれば少しは楽になるか。…外へ出よう。このあたりは、東京と違って、星がよく見える。ちょうど今頃は、流星群が観察されるそうだ。風呂と食事で身も舌も満たされたなら、今度は星々で視覚も潤わそうではないか」

瑛一の提案に賛同し、彼の肩に寄りかかりながら旅館の外へと出る。

都会からだいぶ離れた甲府盆地、東京とは違い、夜になれば街は然るべきして眠っている。虫とフクロウの鳴き声以外何も聞こえなく、静寂が心地よかった。寒くもなく暑くもないこの季節、旅館の浴衣1枚で外へ出ても平気だった。酒で火照ってしまった身体を冷やすにはちょうど良い。
上を見上げ、私は思わず感嘆の声をあげた。
夜空に浮かぶ幾百もの星々たち。まるで、天に穴が空いているかのようだった。


「俺のために、大分無理を強いてしまったんだな…」

瑛一が、ふと小さな声で呟いた。静かなこの空間では、いくら小さくとも、しっかりと私の耳に入った。

「えっ、いや、そういう訳じゃ……でも、確かにあなたのこと考えれば考えるほど、曲の完成が遠のいてしまってる」

でもそれは。

「多分きっと、瑛一のことまだまだ知らないんだなって」

私の無知に起因する。

「まだ数ヶ月しか付き合ってないし、出会って1年ちょっとだもんね」

付き合ってから何か月かは経過している。けれど、体を重ねたことはなかった。
何度かそのような流れになっても、わたしは瑛一を受け入れる覚悟がなく、結局続きを拒んでしまっていた。
ここで、重ねたら、彼と私の間に何かが変わってしまうのではないか。彼が私の前から消えてしまうのではないか。
あるがままを受け入れられずに、変化を恐れていた。
彼のことはもちろん好きだし、そのようなことも望んでいない訳では無い。
むしろここで拒むのはなんとも贅沢なのだろうと思う。彼に抱かれたいと思う女性は幾千、幾万はいるのだろうから。

「でもこうして、私のために旅行連れて行ってくれて、とってもとっても優しい人なんだなっていうのは分かってる」

涙を零すような流星が、瑛一の背中越しに見えた。それは一際美しい光景だった。

「瑛一、どうか、今夜、私を……」


***


部屋に戻ると、その内部の変化にドキッとした。
2組の布団が寄り添うかのように、隣接して敷かれていた。
旅館の人の粋な計らい、とでもいうのか。
ちらっと彼を窺いみる。薄暗い部屋の中、小さな灯りに照らされた彼は、私を見つめていた。

「いいんだな、名前…」

そっと私の頬に手が添えられる。

「…うん」

ぎゅっと彼の手を握る。それを合図に、そのまま彼はグイッと私の肩を掴み、布団の海へと私を押し倒した。背中に柔らかい布団の感触がする。天井にある木目が私たちを見下ろしていた。
間もなくして、熱く深い口付けが降ってきた。捕らわれた舌は彼にもてあそばれる。漏れる声と耳に残るような水音が扇情的な気分に掻き立てる。
目の前に迫った瑛一の顔を見る。透き通るようなアメジストの瞳、艶やかさを感じさせる下睫毛、いつ見ても端正な顔立ちだと思う。
熱を帯びた頬は、妖艶さを何倍にも引き上げている。

「名前、無理するな」

私の身体中をまさぐりながらも、いつものように私を気遣う彼。

「怖いのか…?」

不安に震えた私の瞳を彼は見逃さない。いつものように、私への観察力は鋭かった。

「すこし、深呼吸をしろ」

作曲作業に手詰まった私を、息抜きの温泉旅行へ連れていくように、解決策を提案する。いつも通りの彼。

「すべて、俺に委ねろ…お前を壊すことなどしないから」

私の耳元で囁く彼は、いつもの抱擁をする時のように、甘く、優しかった。

「えい、いち…」
「名前…」

瑛一は、瑛一のままだったのだ。
そして、彼と体が繋がったとしても、私は私だ。お互い変化などありはしない。
だから、恐れるものなどない。もっと、もっと、彼を知りたい。
火照った身体はもう既に力なくぐったりしている。瑛一を受け入れる準備は整っていた。彼も、私と繋がる準備は出来ていたみたいだった。

大好きやら、愛してるやら恥ずかしいセリフを吐きながら、溶け合い、交じりあった。


***

目を覚ますと、あたりはまだ暗かった。
隣には瑛一が規則正しい呼吸をしながら寝ていた。その顔には少しだけあどけなさが残っていて、普段の彼からは想像付かない。
無防備な彼の姿を見るのが新鮮で思わず笑みがこぼれる。
・・・この夜を通じて、ひとつわかったことがある。彼は思っていた以上に他人、特に身内に気を遣いすぎている。情事中も、何度も何度も私に「大丈夫か」と、問いかけてくる。
決して独断で次に進めようとしなかった。身内の平穏のためならば、多少自己を犠牲にしても厭わないのだろう。
そんな彼だからこそ、私は惹かれたのだ。
決して、真っ直ぐな求愛に圧倒されて付き合った訳では無い。
アンセルフィッシュな彼に、曲を贈らなければ。
きっと今ならいい曲が作れそうな気がする。


「一なる想いで不変の調べを紡ぐ」


「大好き」という気持ちが変わらぬまま共に時を重ね続けられるよう願いを込め、新曲に名を付けた。


fin

ドキドキする夢を書きたかった、それだけなのに、なぜか瑛一が名前さんをひたすら介護する話になっている・・・・(爆)

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -