小説 | ナノ

文字で誓う最高の頂

残暑もまだ厳しい中、私はひとつの悩みを抱えていた。
明日から9月を迎える。そうなれば、1つ大きなイベントが待ち受けていた。
9月1日、鳳瑛一の誕生日。
私は数年前にこのレイジングエンターテインメント事務所に入所し、作曲・編曲の仕事をしていた。鳳瑛一が率いるアイドルグループ、HE★VENSに対しても多数楽曲を提供している。
去年末、HE★VENSメンバーの忘年会に誘われ参加し、その帰り道に鳳瑛一に告白され、恋人同士となった。

HE★VENSでは、メンバーの誕生日にはささやかな誕生会が催される。その誕生会には作曲家の私も招待されている。
彼と恋人同士になって初めて迎える誕生日。彼になにか特別なプレゼントを贈りたい、そう思っていた。
だが、彼にいったい何を贈ればいいのか、決めあぐねていた。

 文字で誓う最高の頂

「苗字さん、凄い悩んでるって顔しているけど大丈夫?」

事務所内にあるHE★VENSの寮に訪れていた私は、共用スペースのソファに座り、スマホと睨めっこしていると、突如穏やかな声が降ってきた。声の正体は鳳瑛二、あの瑛一の弟だ。

「明日、瑛一の誕生日でしょ?誕生会でしょ?なにプレゼントしようか悩んでるワケで。」
「あー、なるほどね。そういえば付き合ってから初めての誕生日だっけ。」
「うん。付き合う前は、こう、形残らないように食べ物とかお酒とかにしてたんだけどさ。せっかくだから残る物を上げたいなって…」
「兄さん、特に今は欲しいものはないって言ってたなあ。」
「趣味がカーレースの人になにをあげるべきなのか……スポーツカーなんてあげる余裕ないよ?!くっ、難しい趣味なんてお持ちで…!」
「はは、誕生日プレゼントって、気持ちの問題だからね。難しいよね。意外と、本人が自分で買わないだろうというものをプレゼントすると喜ばれることがあるよ。もちろん、その人の好みからかけ離れていたらアレだけど…。」
「本人が、自分で買わない…か…」
「何はともあれ、苗字さんが選んだものなら絶対に兄さんは気に入ってくれるよ。」
「…ありがとう。」

瑛二のありがたいアドバイスを得て、私はとりあえず街に出て考えようと思った。
店に入って商品を眺めていればいい案が浮かぶかもしれないと思った。
駅前の百貨店に足を運ぶ。土曜日のせいか、多くの人でにぎわっていた。夏休みの終盤の思い出作りのためか、子供連れがやけに多い。

私は、棚に陳列された商品を見ながら、あれは違う、これもちょっと・・と、試行錯誤を繰り返していた。
時計は高価すぎるし、本人の「お気に入り」がある以上、渡しにくい。服もサイズがわからないから却下だ。
装飾品がだめなら、やはり・・と、百貨店の中にある有名文具店に入店する。
文房具ならば、貰ってもうれしいし、自分ではきっと買わない物があるだろう。
しばらく、店内を物色していると、とあるコーナーに目を奪われた。
―――万年筆。
瑛一は万年筆を所持していない。
歌詞を打ち込む時はだいたいパソコンだし、日記を付けている習慣もない。
瑛一本人がわざわざ購入することは、きっとないのだろう。
瑛一の字は、立ち振る舞いの壮麗さとは裏腹に、繊細かつ丁寧だ。
字に性格が出るというのか。彼は実際には真っ直ぐで、正直で、仲間・家族想いで優しい。
すこし自己犠牲の面も垣間見る。そんな性質が全面に出る彼の字が私は好きだ。
ファンへのメッセージを書く時に、歌詞を書き綴るとき、この万年筆で想いを綴って欲しい。
万年筆はどこか高級感もあり、彼の好みにかけ離れていなさそうどころか、ピッタリだ。
万年筆のボディの色はもちろん彼のイメージカラーである赤色。自己主張のある革命的なカラー。彼にマッチする。
お会計を済ませて、百貨店を後にする。
後は、明日を待つのみだった。


***

そして、9月1日、鳳瑛一の誕生日を迎えた。誕生会は、当日の夜に事務所内で行われることとなった。
会議室の一室にある大きなテーブルには、たくさんのご馳走や飲み物が所狭しと並んでいた。
ちなみにこのごちそうは、瑛二と綺羅が作ったようだ。毎回毎回、彼らの器用さには舌を巻く。

「・・・・おめでとう。瑛一・・・おまえと、こうして今日を迎えられることを・・・うれしく思う。」
「瑛一おめでと〜!ウルトラキューティーナギが祝ってあげるんだから、喜んでくれるよね?」
「兄さん、お誕生日おめでとう。いつもHE★VENSを引っ張ってくれてありがとう。」
「えいいっちゃん、おめでとさん。ひゃ〜どんどんおっきくなってワイびっくりやわぁ〜」
「おめでとう!今年も突っ走っていこうぜ!」
「そなたがこの地に生まれたことを、感謝しようぞ、瑛一・・・」
「お誕生日おめでとう、瑛一。生まれてきてくれてありがとう」
「ははは、感謝するぞ!HE★VENS、そして名前とこの誕生日を過ごせるとは、俺も果報者だ。イイ・・最高だ!」

メンバーと私からのお祝いの言葉に、感極まったのか、手で顔を覆い、悦に浸っている。
全身を使って喜びを表現するのは何とも瑛一らしい。

「そだ、実家から葡萄酒送られてきたよ。兄さん、開けよう。」

そういって瑛二はワイングラスに葡萄酒を注ぐ。芳醇な葡萄の香りが鼻をくすぐる。
そういえば、瑛一と瑛二の実家がある山梨県は、葡萄の産地だったけ。

「ああ・・故郷の味がする。懐かしい。イイッ……」

瑛一はあっという間にグラス内のワインを飲み干してしまった。ヴァンも大和も綺羅も、成人したメンバーはお酒を嗜んでいた。
シオン、ナギ、瑛二の未成年組はぶどうジュースを飲んでいた。
私も、成人はしているが、お酒は弱いので彼らと一緒にぶどうジュースを飲んでいた。

プレゼントを渡す時間となった。まずはメンバーそれぞれから、瑛一に手渡された。
どれも、瑛一のイメージにぴったり、かつ選んだ人の色も垣間見えるもので、さすがはメンバーとして共に過ごしてきた人たちだなと思った。
そして。

「これ、わたしから」
「・・・お前は何を選んでくれたんだ・・?ん・・万年筆?」
「わぁ、よかったね兄さん。とってもかっこいい。」
「ひゅぅ、あだ名のセンス光ってるなァ!」
「イイ・・・・最高だ!これで魂を揺さぶる歌詞を紡ごうではないか・・!!お前の作った曲に!」

いつものように大げさに喜んでくれる彼にホッとした。
瑛二に感謝しないとな。
無事にプレゼントも渡したことで、しばらくはメンバーとの歓談を楽しんでいた。


「瑛二、今日もお前は完璧だ!最高だ!」
「兄さん、ちょっと飲みすぎじゃない?大丈夫?」

瑛二は少し酔っぱらった瑛一の頭をポンポンとしていた。
こういう光景は珍しくない。見かけるたび、どっちが兄なのだろうと思うところがある。

***

皆でごちそうにありついて、そろそろ誕生会もお開きになる時間が間近に迫っているころ、ふいにだれかに手を引っ張られ、連行される。
手を引っ張った主は、瑛一だった。夜風に当たりたいから、ともに来てくれ、とのことだった。
少し酔っているのか、顔が少しだけ赤かった。思わずそれにドキッとする。

会議室の近くの中庭にあるベンチに並んで腰かける。
さすがに9月を迎えただけあって、夜になれば外の空気はもうすっかり涼しかった。
時折吹くそよ風が心地よい。

「万年筆、嬉しいぞ。ありがとう。…ところで、なんで万年筆なんだ?俺は使ったことがないのに。」

突如彼が口を開く。

「わたし、瑛一の字が好きなんだ。漢字の1画1画丁寧で、流れるような字の羅列。
あなたのまっすぐな性格がそのまま出ているようで、ね」

彼はそうか、といって、再び沈黙する。
私が褒めたというに、めずらしく彼にしてはおとなしい。

「好きなのは、字だけか」

いつになく自信のなさそうな声。
それは、酔っているからだろうか。それとも・・・

「……そ、そりゃ、んまぁ、もちろん、あなたのことだって…」

声のボリュームが極端に下がる。
きっと何を言っているのか彼は聞き取れなかったのではないか。
素直になれないのは、全くもって改善されないな。私は。
瑛一と出会えて良かったと思う。
彼の独特な生き様は、私を何度も虜にする。完璧を目指すのは、HE★VENSにいるならばそれは可能だから。
約束されたものなど、もはや願望ですらない。未来への決意。
こんなにも自信に満ち溢れているのは、メンバーに対して絶対的な誇りを抱いているから。

「私は、瑛一のこと、好き。貴方に会えてよかったと、切に思っているよ」

ようやく出た彼への愛の言葉。せっかくの誕生日だから、私も彼に素直になりたかった。
突如、彼は私の腰を捕え、ぐっと彼に引き寄せる。私の身体は、彼の腕の中にすっぽりと収まってしまった。
顎に手を添えられる。情熱的なイメージカラーとは対照的にその手はひんやりと冷たい。
熱く、強く見つめられる。彼のアメジスト色の瞳は、彼の高貴さを良く印象づけている。
そのまま、半ば強引に口付けられた。ほのかに、葡萄酒の香りがする。
お酒を飲んでいないのに、私まで酔ってしまいそうだ。

「名前、お前を愛せること、お前から愛されること、全てが、貴(たっと)い…」

唇が離される。だが、身体は離されないままだ。
熱に溺れた瞳、熱く湿った吐息。彼が酔っているせいなのか、彼の全てが官能的だった。
思わず彼のシャツをギュッとつかむ。もっとして欲しいという自分なりのサイン。
それに彼は勘づいたのか、ふ、と妖艶に笑い、再び唇を重ねてきた。今度は深く激しいものだった。

「おめでとう、瑛一。」
「ああ、お前と共に時を重ねるこの奇跡を、俺は永遠に噛み締める。」

Fin〜 HAPPY BIRTH DAY to Eichi Otori!!(2019.09.01)

あとがき
ま、間に合いました!!(現在2019.09.01.22.09)
綺羅お酒飲んでいますが、19歳なのは2000%時なのでキングダム時系列ではもう成人しているだろうなと勝手な予想。
シオンとナギは未成年ですが、瑛二が成人しているのか不明ですよね。個人的には19歳当たりであってほしいです。現役大学生だと嬉しいです。
話が脱線しましたが、瑛一の字にすこし、すこしだけクローズアップしたお話にしてみました。
彼は物書きの時はデジタル派だろうかなと思って、万年筆持っていないのでは・・と思いました。
というのも、彼の字は薄めなので、万年筆不要なのかなと。逆にヴァンや瑛二は字からして持ってそうだなと思いました。
雰囲気的に万年筆持ってそうなのは綺羅くんですが。

余談ですが、瑛二が瑛一の頭ポンポンしたのは某上i松神の本日のツイートから((笑))

長くなりましたが、ここまでお読みくださりありがとうございます。
お誕生日おめでとう瑛一!!

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