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「谷垣くん、今日暇?」

信号待ちしている遥の後ろから、二人の友人に話しかけられる。

「ごめんバイトなんだ。なんで?」
「来週のテスト勉強一緒にしよっかって」

勉強かぁ…

「また大丈夫な時教えてね!谷垣くん頭良いから助かるんだよね」
「そんな事ないよ。うん、また言うね」

周りの生徒が歩き出し、青信号を知らせる。じゃあ、と、手を振り友人と別れ歩道を渡ってゆく。

一緒に勉強…僕の友達って、勉強ばっかだなぁ。虎さん達と遊んでる時が一番楽しかった…。

一旦帰宅して、バイトに向かう。
関係者専用の裏口から入ると、ロッカールームに出て、バイト仲間に挨拶をし制服に着替えた。交代の時間まで少しあるので椅子に座り待っていると、先に入っている男の子がヒョコっと顔を出す。

「あ、いたいた。谷垣になんか指名なんだけど」
「指名?」

訳が分からず、男の子の後ろに着いてカウンターに出ると、そこには手を振りながら笑顔の良之助が居た。

「良之助さん!?」
「やっほー遥ちゃん!今日入ってて良かった〜」
「は、はい、今日バイトですけど、どうしたんですか?」
「今光達と来てんの」

え…

遥の硬直した表情を見て、良之助は光と泰司と三人だからと弁解した。あの日、良之助達の目の前での出来事だったから、虎はいないからと言われても不思議ではない。

「あん時、ごめんね。俺が連れてったりしたから」
「いえ!元々行くつもりでしたし、気にしないで下さい、」
「うーん、でも何で虎あんな事…」

そこまで言葉を出してから、良之助はマズいと言う顔をして口を手で抑えた。

「ほ、本当に気にしないで下さいね?」

遥はそう言いながら、眉を情けなく下げて笑顔を見せた。

「…あの、一つ聞いてもいいですか?」
「なに?」
「虎さんがいきなり僕と友達辞めた理由って知ってますか?」

そう聞かれて、良之助も実際はっきりと理由を知らない為何とも言い難かったが、光の言葉を思い出した。

「詳しくわ知らないんだけどさー、もしかしたら美咲ちゃんが絡んでるかもしれないなって」
「美咲?」
「……あ。」

またもやマズッたと口を抑えたが、時既に遅し。遥は目を見開いて頭を傾けた。

「どうして美咲が?」
「いや、適当に〜っ」
「なにか知ってるんですか…?」

じりっとカウンター越しに、にじりよられて良之助は冷や汗を垂らす。前にテーマパークへ行った時に、美咲ちゃんは虎が遥を好きな事を感づいていると知った良之助だが、そんな事を知るはずがない遥。光に決して言うなと釘刺されてるし…この状況は非常にヤバい。

「俺部屋戻らないとっ!じゃっ、バイト頑張ってね」
「あ、ちょっと良之助さん!」

すたこらと退散した良之助を必死に呼び止めたが、もう既に姿が見えなくなった。

何?僕が知らない所で、何か起きてる?

遥は眉間にシワを寄せて、拳に力を入れた。今すぐにでも良之助達が居る部屋へ突入したいが、もうバイトの交代の為持ち場を離れられなかった。




良之助は勢いよく部屋の扉を開けて、背中越しに閉じた。丁度、泰司は熱唱していて光が機械で選曲している。自分の定位置に戻り、ちらっと光を見た。

「トイレ長かったな」
「ぇあ?お、おう。腹の調子が悪くて…」

視線に気付いた光に話しかけられ、良之助は慌てて返事をし、飲み物を一気に喉に流し込む。

遥ちゃんに要らぬ事を言ってしまった。

光にバレれば、雷が落ちるのは名目。良之助は遥が乗り込んで来ないかと、扉を見てはひたすらヒヤヒヤとしていた。

その頃、先方の都合で時間が営業終了後に変更になり、虎と美園は空いた時間に夕ご飯を食べて目的地に向かった。
すっかり空は真っ暗になっていたが、駅近くと言う事もあり、街灯や電飾で辺りは明るい。駐車場がない為路上に駐車したのだが、車内から出た虎の表情は何故か暗かった。

「…はぁ」

溜め息を付きながら、目的地の場所を見てから次は反対車線に目をやった。
その反対車線の真んま向かいは、なんと遥が通うバイト先の店だったのだ。

タイミング悪いにも程があるだろうよ。嫌でも離れられないってか…

嬉しいような悲しいような。いや、正直嬉しいのだが、辛さも半分半分である。

気にするなと自分に暗示をかけ、先をゆく美園の後ろに付いて歩いた。
今回、紹介で就職出来る所は立派なビルでも工場でもなく、よくある普通のショップ店である。仕事の内容について大まかな内容は把握していたが、詳細は聞かされていない。

ーカランカラン

入店を合図するベルが頭上で鳴り、虎は足を踏み入れた。店内は細長くこれといって大きくもなく、壁は材木で出来ており特有の香りがする。その壁には沢山の釘が無造作に刺り数々のアクセサリーが飾られていた。独特な雰囲気が漂っている。

「はいはい、いらっしゃい〜」

そう言って、一人の男性が奥の扉から顔を出した。長髪を一本に束ね、眼鏡をかけた面長な顔に、汚れたエプロン。

「守道、なんだその格好は」

美園は呆れた表情をし、プッと笑った。守道と呼ばれる男は、頭をぽりぽり掻いてエプロンで手を拭きながら、優しそうな笑顔を見せた。

「いや〜作業がノッちゃって。もうすぐコレクションだしなぁ」

すると、美園の後ろに居た虎に気付き、「あ!」と嬉しそうな表情をした。虎はお辞儀をし挨拶をする。

「初めまして。桐林虎です」
「いらっしゃ〜い。一応店長の錦守道(ニシキモリミチ)です。まぁ座って座って」

自己紹介をし、これまたお洒落な木彫りのベンチに美園と座ると、向かいに守道が腰掛けた。

「じゃあ説明から始めよっかぁ」

にこやかな空気の中、店長の守道は概要を話し出した。


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