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虎の自宅から橋を渡り、少し行ったコンビニで、良之助はカゴに烏龍茶やおにぎりなどを放り込んだ。レジへ行き豚まんを頼み、会計を済ます。
時刻は20時を過ぎ、住宅街に位置するこのコンビニには既に閑散としていた。ただでさえクリスマスだ、みんな聖なる夜に浮わついているのだろうと、良之助は悔しさで鼻を啜る。
まぁこの店員が可愛いから許しますけどね!クリスマス万歳!

「ありがとうございました」
「ありがと〜。ねぇ君可愛いね、アド教えてよ!」


………ウィーン

「ゲット♪」

軽くスキップ混じりに店を出て、良之助は虎の家へと歩き出した。
上着を着ずに出た為、ブルっと身震いをする。息が淡く白い。

橋に向かって坂道を進んで行くと背後に人の気配がして、良之助は慌て振り向いた。

「──!」
「は、遥ちゃん!?」

するとそこには、良之助の肩に手を掛けようとしていたのか、すぐ後ろで遥が手を上げた状態で驚いた表情で立ち尽くしていた。

「すっすみません、びっくりさせてしまって」
「いや、こっちも驚かせてごめんっ」

久しぶりもあってか、少しばかり気まず気にお互い向き合って笑い合う。

「あれ、今日1人なの?美咲ちゃんは?」
「あ…はい…」

クリスマスだ、彼女と過ごすのが相場だからと聞いたのだが、何とも暗い表情で返されてしまった。
何かあったのだろう…聞かない方が無難だろうが、虎の事もあってか気まずさが数倍増してしまった。

「あー…と、これからどっか行くの?家帰る途中とか?」
「いえ、今から虎さん家に行こうかと思って…」
「虎ん所?」
「はい、」

今虎めっちゃ荒れてるしなぁ、会ったらヤバいよなぁ〜。

良之助は、うーんと頭を悩ませて唸る。

でも、クリスマスの今日だろ、それにこんな夜に虎の所って訳ありだよなぁ?彼女とも別々だし…

更に頭を悩ませる。

連れて行くか?
やっぱ危ないか?

「うーん、うーん、うーん…」
「…良之助さん?」
「は!んおっ、ちょっと待ってね」
「え?あ、はい」

腕を組み頭を傾けて、ない頭をフル回転させる。

虎は忘れたって言ってるけど、あれは無理矢理忘れようとしてるだけだし、遥ちゃんはそれを知らないみたいだし…
これは一回話し合わせるべき…だよな?

「…よし。遥ちゃん、俺達今虎ん家に居るんだよ。一緒に来る?」
「はい、僕も行くつもりだったので。一緒に行きます」


いいよな、虎。
お前らは一度は向き合うべきなんだよ


寒空の中、良之助は遥と肩を並べて虎の元へと向かった。

短い橋を渡り川沿いを進むと、見慣れた風景が広がる。そこに佇む懐かしい一軒の家。門前で立ち止まると、なんだかホカホカとした気分で家を見上げる。

虎さん家、久しぶりだなぁ…

「…くす、」

思わず笑ってしまい、先に玄関に入った良之助の後を慌てて追いかけた。
靴を脱ぎ、小さく「お邪魔します」と言う。一階は真っ暗なので誰もいないみたいだ。

階段をこっそりと上がり、少し開いた扉から虎の部屋の明かりが漏れている。

虎さんがいる…虎さんに会える…

何故だか鳴り響く鼓動が、耳にまで伝わってきた。凄い緊張する…


ガラ、

「ただいま〜、買ってきたよ」
「お疲れさん良之助。」

泰司と光はテレビ画面に繰り広げられるゲームに熱中していて、虎はと言うと、ベッドでうつ伏せで寝ている…否、倒れているが正しいに等しいだろう。

「虎寝てんの?」
「さぁ〜。てか寒いから扉閉めろよ」

光が視線を開いた扉に向けた瞬間、凍りついた。開いた扉のすぐ後ろに、遥の姿があったからだ。

「…良之助!」

有り得ないと言う表情で立ち上がった瞬間、ベッドに寝ころんでいた虎が…体を起こした。光はピタッと動きを止め、虎を見つめる。

「良之助〜酒買ってきた〜?」

フラリと揺れる体を必死に自分で支えながら、ベッドの脇に座った。
重たそうな瞼を持ち上げながら、徐々に虎の視線が良之助に向けられてゆく。

「……っ!」

ビクッと目を見開き、体を硬直させる。

「ー…は…るか…」

「こんばんは、虎さん…」



ー…約一ヶ月ぶりとなる、再会だった。


◇◆◇

光は良之助の首根っこを引っ張り、廊下へ突き出した。扉を閉め、声が漏れない程度に口を開く。

「お前何て事してくれたんだよっ!!」

血相を抱えて怒鳴る光に、良之助は肩を竦めた。勿論、声は押し殺しているのだが、有り得ない程の形相に良之助は冷や汗たらたらだ。

「いや、途中で会って、虎ん家来るって行ってたから…」
「だから連れてきた!?」
「…はい」

光は大袈裟に溜め息を付いて、頭をかきむしった。良之助は良かれと思いした事なのに、なんだかしゃくに障る。

「なんで駄目なんだよ?あいつら一回話し合うべきだと思うんだけど」
「そんなの俺だって思うよ。でも今はヤバいだろ、明らかに…」

あ、やっぱり今はヤバかったんだ。
良之助もやってしまったと頭をかく。

「爆発しなきゃいいけど…」

更に大きく溜め息を付き、扉をゆっくりと開けて、部屋の中を見た。
虎は座ったままで、遥も立ったままお互い無言だ。泰司は居ずらそうにしている。そんな泰司の隣に光達は正座で腰を下ろした。



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