34

放課後。

「遥ー!帰ろぉー」

教室の後ろの扉から美咲が手招きをする。鞄に必要な分だけ教科書を詰めると、遥は駆け足で向かった。

「ごめん、今日別々に帰らない?」
「なんで?」
「ほら、もうすぐクリスマスだし…」

そう言うと、美咲は「あ!」と、気付いたように声を上げ、笑顔でわかったと手を振って帰った。私へのプレゼントを買うんだね、と思ったんだろう。
そんな美咲に手を振り返し見送る。
本当は虎さんのプレゼント見に行くんだけど…美咲のプレゼントちゃんと買うから。許してね、美咲。

少し時間をずらしてから、遥も学校を後にした。


◇◆◇

駅前の街に出ると、まず近くにあったインテリア店、次に洋服店、アクセサリー店などをぐるぐると巡るがこれといってピンと来るものがない。
インテリアは虎の好みが判らないし、服はサイズを知らない。

「プレゼントって言っても、虎さんの事何も知らないなぁ…」

店を出て歩いていると、ネックレスや指輪などを売っている路上販売に目が止まった。
シートに手書きで値段が書かれ、一風変わったデザインのアクセサリーが散らばっている。その後ろで女性の人がまさに今アクセサリーを造っていた。木彫りの小さな飾りを、器用に彫っている。
遥はしゃがんで一つ一つ眺めていく。

「何か気に入ったのある?」

女性が手を止めて、遥に問い掛けた。

「凄い綺麗でかっこいいですね、全部」
「ふふ、ありがとう」

確かに凄い気に入ったけど、これもいいな、あれもいいなと思うが、どれが良いかと聞かれれば判らない。

「もうすぐクリスマスだね。そのプレゼントかな?」
「あ、はい。そうです。でも何がいいかわからなくて」
「ん〜。贈る人はどんな人?」
「…どんな人…」

遥は虎を思い浮かべて考える。

「かっこよくて、ちょっと近寄りがたいようで…でも、実は優しい人…かな」
「うーん、ちょっと待ってね」

そう言うと、作業をしていた台の下から小さな木箱を取り出し、遥の目の前で蓋を開けた。
そこには小さなターコイズブルーの石がはめられた皮のブレスレットが2つあった。シンプルだけど、とても綺麗なブルーが印象的だ。

「これ、本当は展示用なんだけど、お兄さんには特別」
「そんな、悪いです」
「大丈夫、ちゃんと代金はもらうよ!」

お姉さんは、にかっと笑って言った。遥も釣られて笑ってしまう。

「じゃあ…それ、お願いします」

そんなに高くもないし、何しろ今までで一番気に入った遥は、購入を決意し代金を支払う。きっと虎さんに似合うだろうなと、頬を緩めて笑顔になってしまう。

「毎度!あ、そうだ。名前無料で刻めるけど、入れる?」
「な、名前ですか?」

名前なんて入れて煩わしくないかなと少し悩むが、虎の喜ぶ姿を想像してやはり刻んでもらう事にした。自分が逆にしてもらえば嬉しいと思えたからだ。

「よし!じゃあ、名前ローマ字でこの紙に書いて」

手渡された紙と鉛筆で「Taiga」と書いた。なんだか照れくさいなと思いながらペンと紙を女性に渡すと、「2人の名前を書いて」と返される。

「せっかくお揃いのブレスなんだから、名前も一緒に入れた方がいいよ」
「でも、1つしか買ってないんですけど」
「さっきの代金はこの2つの値段だよ。」

そうだったのか、と木箱に納められている2つのブレスレットを見やる。お揃いの…ブレスレット。
再度紙と鉛筆を借り「Haruka」と書いて手渡した。

「じゃあ10分ぐらい待ってね、ラッピングもしとくね?」
「はい、宜しくお願いします」

まかせて!と、作業場に体を向け、器用にブレスの皮へ名前を刻んでいく。
遥は横にあった木彫りの小さな椅子に腰掛け、体をうずうずさせて待っていた。




そして10分後。

「お兄さんお待たせ、これでいいかな?」

差し出された2つのブレスレットには、それぞれに綺麗に「Taiga」「Haruka」と刻まれていた。シンプルだったブレスに更に味が出たようだ。
満足です!と、こくこくっと頷き、お姉さんは次にラッピングをしてくれる。

「はいーお待たせしました。いいクリスマスをね!」

ありがとうございますと、頭を軽く下げて手渡されたプレゼントを大事そうに胸で抱きしめた。
そのまま鞄に優しく仕舞い、軽くスキップ気味に虎の家へと歩き出す。

へへ、早く渡したいなぁ。虎さん喜ぶかな?流れ的に僕もお揃いのを買ってしまったけど、早く一緒に付けたいなぁ。

虎とお揃いで腕にはめたのを想像して、ふふっと笑ってしまう。

浮き足立った足取りで歩いていると、ふと、反対車線の歩道に目がいった。夕方の人混みの中で、数人の学生が歩いている。
それは、なんだか見覚えのある…

「光さんと、良之助さん?」

立ち止まって少しばかり見てると、すぐに本人達だとはっきり確認出来た。
もしかしたら虎さんもいる?
そう思い目を凝らしてみると、少し前方に懐かしい虎の姿を見つけた。

虎さんだ!

ドクリと沸き立つ気持ちにすぐに歩道を渡ろとしたが、遥の足取りは地面に貼り付けられたかのように動かなくなってしまった。

虎の横に楽しそうに腕を組む女性が居たからだ。
久しく見た虎も笑顔を見せ、だがその表情は遥には見た事もないような笑顔そのもので。それは、明らかに男性が欲の目を表した獣の瞳。

ぞくりと不信感が巡る。肩を組み、頬を寄せては何かを耳打ちしてじゃれあう。周囲の雑音が消え、呼吸が止まり、だが鼓動だけが大きく脈打つ錯覚に陥る。
そして、ふとある事を思い出した。


《本命彼女》

「彼女出来たの本当だったんだ…」

…そっか。だからメールもなくなったのかな。彼女と居る時間のが大事だよね。

「元気そうだなぁ、そっか…元気なら何より…」

瞼の落ちた表情で視線をずらした遥は、歩道を渡らずにそのまま自宅へ帰る事にした。



ちくり、チクリ。

あれ、また胸が痛いなぁ
チクチクする…


「まただ…本当変だ、僕…」

胸に針を刺したような疼きを抑えながら、遥は振り向く事なく脚を動かしていく。
雑踏を掻き分け、もう目をくれる事すら拒否を示した足取りで。






「どうした、良之助?」

光は急に立ち止まる良之助に問い掛けた。

「えーいやー、今遥ちゃん居たような」
「うそ、どこ?」

良之助の視線の先を同じ様に反対斜線の歩道を見るが、見えるは人波ばかりで遥の姿なんてない。

「気のせいじゃないか?」
「ん〜でも似てたなぁ〜」

良之助は腕を組み、また歩みを再開する。

「もし居たとしても、こんな虎見せれねぇだろ」

そう言って女の腰に手を回し前を歩く虎に、眉をしかめた。

「俺の勘じゃ、多分、遥ちゃんもまんざらじゃなかった筈だし」
「え!?そうなの!?じゃあ虎に言った方が」

虎に駆け寄ろうとした良之助の首を瞬時に握り、行く手を阻止する。

「まー待て待て。遥ちゃんは絶対自分の気持ちに気づいてないから、俺達がちょっかい出さない方がいい。それに、虎にはちゃんとした恋愛を自分からして欲しいしな。俺達の手伝いは準備だけだ。余計な事は言うなよ?」

良之助を上から抑えるように見下ろして、「絶対言うなよ」と再度釘刺した。

「それにしても…」



「やだータイガまじそれしか頭ないんだからぁ」
「なんで。一回ヤッたんだから二回も三回も同じだろ」
「え〜じゃああと一回だけなら許そっかな?」

虎と女は楽しそうにお喋りをする。それはホテルに行こうと言うお誘い。

「前の虎に完璧戻ってる…」

はぁ、と光は大きく肩を落とした。



(34/49p)
しおりをはさむ

「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -