30

美咲は虎と別れて間も無く、待ち合わせ場所で待つ遥と合流した。そして、そのままとある雑貨屋さんへと立ち寄る。部屋のインテリアに何か欲しいと言出したの美咲で、今日はここへ行こう明日はあそこ行きたい、と、毎日遥と出かける用事を作っていた。
パステルカラーやアンティークなど、様々なインテリアが飾られたその店で、遥は小さなサボテンの植木鉢を眺めている。
それはもう微動にもせず、じっと。

「可愛いね、そのサボテン」
「うん」

一応返事はするのだが、どこか聞いていないような様子でツンツンとサボテンの棘を突いている。

「ねぇ、これなんてどう?壁にかけたらいい感じかも、ライトに色を合わせたら赤のが映えるかな」
「うん…いいんじゃない」

見てもない癖に…。手に持っていた壁飾りの小物を戻し、遥が見つめるサボテンに触れてみた。

「さっき、虎さんにあったよ」
「え?」

遥は振り向き、ここ最近なかったような明るい声色で問いかけてくる。

「ど、どこで?虎さん元気だった?」
「遥に会う前に道で。女の子と居たよ、楽しそうに腕組んでた」
「女…の子と、そっか。元気みたいだね」

腕組んでたのは本当だもん、…女の子からしがみ付いてるって感じだったけど。ごめん、遥。凄く意地悪だね私…
ちらっと横目で遥を見上げると、自分では気付いていないだろうな苦し紛れな笑顔を見せた。
いやだ、そんな目で見ないでよ。泣きそうな顔しないでよ…っ

「は遥」
「ごめん、美咲。ちょっと気分悪いから先帰っていいかな?…ごめん」
「うん…気をつけてね…」

本当はそれが嘘なのだと判っていたが美咲には引き留める事は出来なかった。すぐさま背を向けると、遥はそのまま店を後にする。美咲もしばらくして、何も買わずに店を出た。家に帰ったのかな?…もう、今日は会えないよね…

「ごめんなさい、遥…」

私が遥を傷付けてる、苦しめている。なんで?私達はずっと昔から一緒なんだよ?どうして離れていくのよ…遥…っ
どうしたらいいかなんて分ってる。遥の気持ちを尊重してあげるべきなんだ。でも、遥は自分の想いにすら気付いていない。気付いたら離れてしまう、私達の今までが壊れちゃうよ…!

涙を堪えながら、美咲はゆっくりと街の中をただ歩いて行った。
一方、遥は意味が判らず苦しい胸を押さえながら、家へ帰る道を進む。途中、通り過ぎる人たちに不可思議な視線を送られそんなに苦しい顔をしているのかと、横に並んでいた喫茶店の小さな窓ガラスを見た。

「…え」

遥はじっと自分の顔を近づけて見てみる。

「なんで…泣いてるの…」

そこには、頬に伝う涙があったのだ。

「え、な、なんで?無意識に泣く程痛かったのかな…」

手のひらで拭取り、両手で頬を包んだ。きっと痛さのせいだろうと、遥は振り向き直し歩みを始めようとすると、何かに大きくぶつかった。

「あ、ごめんね」
「いえ、すみませんっ」

女の人にぶつかったらしく、遥は大きくよろけた。そのまま通り過ぎようとした瞬間、聞きなれた名前が耳に入ってくる。それは今一番会いたいと願う「タイガ」と言う名前。振り返ると二人の女性は話を続けている。

──タイガって虎さんの事だよね…?

「まじつまんない。本カノとかあり得ないって」

──本…カノ?

「でもタイガの事だしすぐ別れるんじゃない?」
「あーそっか。そしたらまた遊べるじゃん!」

そうして二人は雑踏の中に消えていった。タイガって言う名前は珍しいし、きっと虎さんだろう。…女友達多いみたいだしね。

「本カノって本命だよね、彼女…出来たんだ」

遥は今にも消え入りそうな声で細々と呟いた。すると、また頬に生温かい感触が伝う。

「なんで?なんで泣くの?」

ごしごしと服の袖を引っ張り、目頭を押さえ込む。

「はっ…意味わかんない、…なんで…」

どうして泣くの?涙が出るの?虎さんに彼女が出来たから…?
もう、余り遊べなくなる事への悲しみだろうか…でもー…

「……ちがう?」

判らない判らないワカラナイ
胸も苦しい。虎さんに会いたい、会いたいよ…


遥は店の脇の壁にもたれかかり、歯を食い縛ってひたすら涙が止まるのを待った。


(30/49p)
しおりをはさむ

「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -